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「アニメ文化外交」が日中友好を実現させる

2013年07月25日 公開

櫻井孝昌(コンテンツメディアプロデューサー)

《PHP新書『日本が好きすぎる中国人女子』より》

 

日本のアニメだけが共通の話題

 現代の中国は日本以上に熾烈な競争社会、学歴社会である。有名大学をめぐる高校生の受験戦争は、生半可なものではない。大学入試では、点数だけでなく、各省ごとに入学者数の制限があるという。要は、テストの成績が圧倒的によくないと志望大学には入れない。

 そんな状況下にあって、若者たちのあいだでアニメだけが共通の話題になるという話をよく耳にする。非常に納得できるエピソードだ。

 文化という枠組みでアニメを捉えたとき、実写のドラマや映画以上に興味深い特徴として「みる人が共通体験をもちやすい」という傾向があげられる。

 リアルな俳優が演じる実写版とは違い、二次元キャラクターが演じるアニメのストーリーは、観客をその世界観に巻き込みやすい。現実の俳優が演じていれば、それを「演技」という世界で人は判断するが、アニメの場合、より感情移入してみることが、現実ではないぶん容易なのである。

 アニメファンのあいだで使われる言葉に「覇権アニメ」というものがある。3カ月ごとにつくられる多くの新作アニメのなかで、もっとも多くの人たちの心を掴んだ作品がファンのあいだでそう呼ばれる。

 テレビの視聴率に基づいた定義ではなく、(そもそもいまアニメの場合、視聴率だけで作品の可否が判断されることは少なく、DVDや関連グッズなどの売り上げまで含めて評価される)、ネットなどでの評判を通して、アニメファンのあいだで自然にできあがっていくヒエラルキーがそれなのだ。まさに「共通体験」を象徴する概念といえるだろう。

 そして、同じ共通体験をもった者どうしは、そのことに関しての会話ならいくらでも語り合えるのである。

 激しい競争社会にいる中国の若者たちが、心を許して話せる素材がアニメであるという現象は、もっと注目されてもよいだろう。

 

中国における現在の総合覇権アニメは『名探偵コナン』

 2012年現在、中国で幅広い年齢層にもっとも人気のあるアニメといえば、まちがいなく『名探偵コナン』である。

 2010年11月、分団長として参加した日中青年交流事業訪中団ポップカルチャー分団が北京で交流しているとき、こんな出来事があった。

 私たちは、日本でいえば宝塚音楽学校のような舞踏を教える女子校を訪問した。冒頭、団長としてスピーチを仰せつかったが、目の前には小・中学生と思しき100名ほどの女子たちが座っている。

 「みなさん、名探偵コナン好きですよね?」

 「はい!」

 中国人女子たち全員から大きな返事が返ってきた。

 「では、あの有名なセリフをみんなでいってみましょう。いいですか?」

 「はい!」

 コナンの話題が出ているのが、みな嬉しくて仕方がないという感である。

 「いきますよ~。1、2、3、はい」

 「真相只有一个」(真実はいつもひとつ!)

 日本の団員たちの驚いた顔が忘れられない。

 「では、みなさんは中国語で、日本のお兄さん、お姉さんには日本語で『真実はいつもひとつ』をいってもらいましょう」

 「真実はいつもひとつ!」

 日本と中国の若者たちが、アニメの台詞で“ひとつ”になった瞬間だった。

 交流終了後、こんなふうに聞いてくる日本人団員がいた。

 「櫻井さん、いつの間に彼女たちに仕込んだんですか?」

 もちろん“仕込んだり”などしていない。

 2010年1月から中国で本格的に文化外交活動を始め、また、訪日団の高校生たちに講演する機会も多くなった。彼らとの交流を通じて、『名探偵コナン』が中国の幅広い層に愛されていると確信するようになった。

 大学生に比べると高校生は、日本のアニメ全体に対する知識量に差がある。だが、『名探偵コナン』の場合は、高校生でも認知度100パーセント。というより、全員が大好きという感じだったのだ。

 「真実はいつもひとつ」の中国語はかなり発音が難しい。私が中国語でいうと、多くの場合、相手は〈???〉という顔になる。だが、そのあとすぐに、それがコナンの台詞とわかると、「ああ、『真実はいつもひとつ』ね」と嬉しそうな顔を浮かべ、台詞を繰り返してくれる。

 そこからは即席の中国語発音講座だ。このやりとりが、とにかく楽しい。

 「真実はいつもひとつ」と同じくらい有名なアニメの台詞がある。あまりにも有名な『美少女戦士セーラームーン』の「月にかわっておしおきよ」。

 中国内陸の湖南省の省都・長沙でランチをしながら、訪中団の大学生ボランティアスタッフに発音を習っていると、通りかかったホールスタッフの若い女性に、こう発音するのよとばかりに、笑顔でお手本を示されたりもした。要は誰でも知っているのだ。

 やはり訪中団で会食した市の30代後半と思しき要職者に、最近覚えた中国語として「月にかわっておしおきよ」を披露しようとすると、「月にかわって」と口にした途端に、「おしおきよ」を彼が中国語でつないでくれた。

 世界が理解し合うことがいかに難しいか、誰もが痛感していると思う。だが、アニメという価値観を通して世界が理解しあえるなら、「アニメ文化外交」の可能性は大きいと思うのだ。

 友人のある中国人女子が、日本のアニメやマンガが好きな理由を、一人ひとりの人間の考え方や世界観が明確にあるから、と答えてくれた。

 アニメ文化外交の目的は、日常レベルでの「価値観の共有」にあると私は考えている。だから私の中国での文化外交活動において、「真実はいつもひとつ!」と「月にかわっておしおきよ」を拙い中国語で話すことは欠かせない。たったこれだけのことで壁を乗り越えられる体験を、身をもってしてきたからだ。

 この小さな事実は、中国の若者たちと日本人の距離を縮める大きな事実でもある。

 

櫻井孝昌(さくらい・たかまさ)
コンテンツメディアプロデューサー
1965年東京都生まれ。コンテンツメディアプロデューサー、作家、デジタルハリウッド大学大学院特任教授。早稲田大学政治経済学部卒業後、出版社にて書籍編集に携わる。その後、数々のメディア、イベントでプロデュース、ディレクションを展開。世界25ヵ国延べ120都市以上で講演、ファッションショープロデュースなどの文化外交を実施中。アニメや原宿ファッションを用いた文化外交のパイオニア的存在。世界各国の日本イベントにゲストとして招かれることも多い。外務省アニメ文化外交に関する有識者会議委員、外務省ポップカルチャー(ファッション分野)における対外発信に関する有識者会議委員などの役職も歴任。『世界カワイイ革命』(PHP新書)、『アニメ文化外交』(ちくま新書)ほか著書多数。新聞、雑誌、Webマガジンなどで連載中。ラジオパーソナリティの顔も。

 

日本が好きすぎる中国人女子日本が好きすぎる中国人女子

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本体価格760円

反日なんてほんとうなのか? 日本のポップカルチャーやファッションにあこがれる中国人女性たちの実態をレポート。日本文化の潜在力。



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