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ウサギはなぜ、カメに負けたのか。その敗因を生物学から解明してみる

蓮実香佑(農学博士)

2013年07月30日 公開 2022年06月07日 更新

ウサギの目はなぜ赤い?

カメに負けて苦汁を飲まされたウサギ。しかし、どういうわけかウサギは泣かされている昔話が多い。古来から伝わる「因幡の白兎」の話でも、ウサギは皮をむかれて泣かされている。また、昔話「兎の目と耳としっぽ」でも、最後にはやっぱり泣いている。

昔話のなかで、ウサギがよく泣かされている理由は、ウサギが泣いた後のような真っ赤な目をしていることにあるようだ。

それにしても、実際にはどうしてウサギの目は赤いのだろうか。

ウサギを観察してみると、すべてのウサギの目が赤いわけではないことに気がつく。赤い目をしているのは白いウサギだけなのである。

目が黒いのは瞳のまわりにメラニン色素があるためである。ところが白ウサギは、瞳のまわりにメラニン色素がなく、眼球が透明である。そのため、目の奥にある血管が透けて目が赤く見えるのである。

もっとも、白ウサギの目が赤いのは飼いウサギの話である。

じつは、白いウサギは色素を持たない突然変異のウサギである。生物では稀に色素を失ったアルビノと呼ばれる突然変異が現れる。

しかし、自然の中では白い個体は目立つので、天敵に襲われやすく、白い個体が自然界で生き残る可能性は小さい。昔は、白いキッネや白いヘビなどを神の使いとして崇めていたが、それだけ希少価値があったのである。

ところが、自然界では生き残れないアルビノを人間は珍重した。白い飼いウサギはこうして誕生したのである。ウサギのほかにも白いハツカネズミはアルビノのよい例である。

さらに、アルビノは植物にも見ることができる。白いカリフラワーは緑色をしたブロッコリーの突然変異で生まれたものだし、私たちが食べている白いエノキタケも本来は茶褐色のキノコが突然変異したものである。

また、私たちが食べている白米も、赤米などの色素を持った古代米が色素を失って誕生したと考えられている。人間は、かくもアルビノを好んできたのだ。

一方、白い飼いウサギに対して、野生のウサギは茶色や灰色などの色をしている。野生のウサギも雪の降る地方では、雪に隠れるための保護色として白い冬毛に生え変わるが、これは色素を失ったわけではないので、野生のウサギは毛が白くても目は赤くない。

ちなみに、欧米人の瞳が青いのは、メラニン色素が少ないからである。メラニン色素は、有害な紫外線から体を守る働きをしている。強い日差しに肌をさらすと、メラニン色素が蓄積して肌が黒くなるのは、紫外線から肌を守ろうとしているのである。

しかし、欧米人の祖先は太陽光の弱い高緯度地方に住んでいたため、色素が少なくなったのだ。また、瞳だけでなく、欧米人の髪の毛が金髪だったり、肌が白いのも、メラニン色素が少ないためである。

桃太郎はなぜ、桃から生まれたのか
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蓮実香佑 著 

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