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著者インタビュー『デフレの正体』

2010年11月08日 公開

藻谷浩介(日本政策投資銀行参事役)、仲俣暁生(フリー編集者・文筆家)

 

日本では凶悪犯罪が増えている?

【仲俣】本の題名から、脱デフレの秘策が書かれた本だと誤解された面もあると思いますが、じつはそういう本ではないんですよね。

【藻谷】そうなんです。まずは事実を知ってもらうのが目的で、政策論が主眼ではありません。客観的な事実認識が広まっていないところに対策を提示しても、議論は噛み合わないのです。

じつは最初は、「人口の波」という題名を考えていました。それでは売れないというので、「日本経済の不都合な真実」という案も考えたのですが、似たような名前の本が先に出てしまったので不採用になりました。(笑)

実際に日本中の地域がどうなっているのか、客観的な数字と現場の情報を入れられるかぎり頭にインプットし、そちらから帰納的に考えていくと真実がみえてくる。

本の前半では、私が辿った事実発見の過程を紙上で再現しています。理論からの演繹が好きで帰納に興味のない人からは、「冗長だ」と批判されている部分ですが。(笑)

孔子も「学びて思わざれば則ち罔し」といっています。学んだセオリーから演繹するばかりで、現実との齟齬に思い至らない人は、モノがみえなくなる危険性が高いということですが、はるか紀元前から問題はあまり変わっていない、ということですね。

【仲俣】セオリーを覚えて演繹するというお受験の作法が身に付いた学歴エリートが日本をダメにした、と。(笑)

【藻谷】帰納する力は、ペーパーテストでは問われないですからね。ですが、帰納する訓練を積まないと、みんながそういっているけれども、じつは間違っているようなセオリーまで、安易に信じ込んでしまいます。そこから逃れるためにも、裏づけるデータはあるか、反証はないか、を確認する習慣が大事です。

日本ではいまでも、社会に広がるある種の「空気」への同調圧力が強いですね。ですが「空気」のほうが、反証だらけの間違いであることも多い。たとえば、「日本では凶悪犯罪が増えている」とよくいわれますが、まったく逆でむしろ減っている。

日本の医療は崩壊しているなどともいわれますが、データで検証するとコストパフォーマンスは先進国一だそうです。だからこそ、日本人の平均寿命が世界最長なのです。

「女性が働くようになったので、子供が生まれなくなった」と考えがちですが、この本にも書いたとおり実際には、「若い女性がフルタイムで働いている率が高い都道府県ほど、出生率も高い」という相関があります。

これだけでは「女性が働くと出生率が上がる」という「論証」にはなりませんが、少なくとも「女性が働くと出生率が下がる」という思い込みに対する「反証」としては有効です。反証がないか確認する、これが間違った「空気」に染まらないための自己防衛策なのです。

 

○○水準という議論に注意せよ

【仲俣】要するに、具体的な数字を前に、一人ひとりが自分の頭で考えてみろ、ということですね。

【藻谷】まさにそのとおりです。「空気」の同調圧力から、ちょっと抜け出してみようという、これはそういう趣旨の本なんです。日本経済の学問的な分析が主眼なのではない。それらをネタに、頭を押さえ込んでくる先入観から、事実の助けを借りて自由になってみませんか、ということを書いています。

出来のいい子供は、「同じ大きさの木の球と鉄の球を同時に落とせば、地面に同時に落ちる」と学校で教えられ、そのまま覚えてしまう。

でも実際は、下から強い風が吹いてくれば、軽くて表面抵抗の大きい木の球のほうが遅く落ちるかもしれない。実験環境に比べて現実の世界では変数が非常に多くなるのです。経済の分野でも、前提として変数を絞り込んだ「理論」が、そのまま現実に妥当するとはかぎりません。理論の同調圧力に負けて、眼前の現実まで、否定する必要はないのです。

【仲俣】インターネットが社会の同調圧力を高めている面もあります。

【藻谷】たしかにそうですね。そこから逃れるための一つのヒントですが、議論の中に○○率とか○○水準、○○比、つまり分数が出てきたら、必ず何を何で割っているのか確認することです。

分子や分母の絶対数の水準の変化もチェックしましょう。たとえば、日本の国際競争力が落ちたといわれますが、リーマン・ショック後の昨年でも、日本の輸出額はバブル期より25%も多かったのです。絶対数を知れば、無用な不安の波から逃れて、着実に未来を見通すことができますよ。

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