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日本人はいつ日本が好きになったのか



2013年10月03日 公開

竹田恒泰(慶應義塾大学講師)

《PHP新書『日本人はいつ日本が好きになったのか』より》

「左寄り」が日本社会の基準点

選挙の前後に、安倍氏待望の空気について「右傾化」という言葉がよく用いられた。これに対抗して、民主党は、自らを「中道」「中庸」などと表現し、自民党と差別化を図ろうとした。だが、安倍氏の立ち位置は果たして「右寄り」で、それを支持する空気は「右傾化」したものなのだろうか。

本来、安倍氏の立ち位置こそ「中道」「中庸」と呼ぶべきだと私は思う。領土を防衛し、若者が日本人としての誇りを持てるような教育を施し、金融緩和によって経済を梃入れして「日本を取り戻す」ことは、全て普通の国なら当たり前のことばかりであり、「右寄り」の政策ではないはずだ。

ではなぜ、そのような立ち位置が「右寄り」といわれるのだろうか。それは、世の中全体が「左傾化」しているため、ど真ん中のことを言うと「右寄り」に聞こえることが原因であろう。保守政策の数々は、決して「右寄り」などではない。もし安倍路線が「右寄り」なら、世界の国々は皆、「極右」になってしまう。

ところで、今時の若者は、自分は右でも左でもない「ノンポリ」もしくは「無党派」と思っている人が多いようだ。だが、実際はそのように思っている人は「左寄り」であることが多い。テレビやラジオの世界では「『やや左寄り』の立場をとっていれば間違いがない」とよくいわれる。「左寄り」の教科書で勉強し、「左寄り」の放送に慣れ親しんでいれば自覚せずとも「左寄り」の思想になるはずだ。「左寄り」こそが日本社会の基準点となっているのである。

しかし、平成21年ごろまでは、しきりに「日本社会は左傾化している」と指摘されていたのを覚えているだろうか。それは民主党が政権を取ったことと関係がある。民主党は旧社会党の左派が党内で力を持っていたため、自ずと「左寄り」の政治が行なわれていた。外国人参政権、夫婦別姓、そして人権擁護などの法案が議論され、防衛面でも中国を刺激しないことを重視した運用がされ、北欧化がもてはやされる風潮とも重なった。

左傾化は日本だけではなく米国でも進行していた。オバマ政権が成立すると、オバマ大統領は国民皆保険の導入を目指すなど、これまでの市場重視の自由主義型経済(右派)から、政府介入重視の北欧型もしくは社会主義型経済(左派)に移行させる政策が取られてきた。2012年の大統領選挙では、まさに経済的価値観を自由主義と社会主義のどちらに置くかが争われ、僅差でオバマ氏が再選を果たした。どちらかが圧勝すれば米国の行く末も決まったであろうが、僅差であったため、結局どちらの道を歩むか、決着に至らなかったと見てよいだろう。

ここで、右と左の思想について整理をしておきたい。「右寄り」「左寄り」などと表現すると、街宣やデモの活動に身を投じる右翼と左翼をイメージする人が多いかもしれない。しかし、ここでいう「右寄り」とは保守主義、「左寄り」とは革新主義のことで、政治的価値観の軸足を置く場所がいずれに寄っているかを問題にしている。保守主義は伝統・文化・権威を重んじる考え方で「右翼思想」に近い。また革新主義はそれらを重視せず、合理性を追求して物事を革新させていく考え方で「左翼思想」に近い。

一方で、経済的価値観も右と左に分類される。つまり、経済右派は市場重視の自由主義型経済を是とし、経済左派は政府介入重視の社会主義型経済を肯定する。そこで、政治的価値観を縦軸、経済的価値観を横軸にして、大きく4分類する考え方がよく用いられている。これをポリティカル・コンパスと言う。日本では保守と経済右派、また革新と経済左派の相性がよく、4分類上では「保守右派」「革新左派」と呼ばれている。また、「保守左派」や「革新右派」も十分に存在し得る。ちなみに私は完全な保守主義かつ、やや経済左派の位置に立っている。

このように、政治的価値観と経済的価値観は2つの独立した価値観であるが、それぞれについて論じると混乱するので、本書で「右寄り」「左寄り」というのは、政治的価値観についてのことだと理解していただきたい。

戦後日本においては、価値観が左右に振れることはなく、「左寄り」の革新思想が深く根を張っていた。この構造が変化し始めたのが平成12年ごろで、その後、震災と外患と民主党政権を経験して、一気に価値観が保守思想に転換したものと思われる。さりとて、いまだに日本の社会は全体的に左に傾いている。しかし、ようやく「日本が好き」と言える空気が作られてきたと感じるのは私だけではないはずだ。

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