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「大人の組織」で問われる “個人のジリツ(自立・自律)”

秋山進(プリンシプル・コンサルティング・グループ代表取締役)

2014年02月25日 公開 2023年01月12日 更新

サッカー日本代表に見る大人への階段

 サッカーの日本代表は、コドモの組織から大人の組織へ成長してきたわかりやすい例だと言えます。

 古くは個々人の技術レベルも低く、いわゆる体育会の根性サッカーで自律性がほとんどない時期がありました。このころはワールドカップ出場自体が目標で、何度挑戦しても韓国や中東諸国の壁を打ち破ることができませんでした(「ドーハの悲劇」以前)。

 その後、Jリーグの発展とともに、個々のレベルが少しずつ高くなり始めましたが、世界的に見ればまだまだで、“モこそこ”レベルでした。しかし、そんな選手たちでも、監督から与えられた役割をしっかりと果たし(他律)、協調することで、ワールドカップでそれなりの成果を出すことができたのです(日韓ワールドカップ一次リーグ突破)。

 「これで一気に強豪国の仲間入りができる!」と、ファンの多くは期待しました。一部の選手は海外の有力チームで活躍するようになり、世界的に見ても優れた選手の仲間入りをしたものの、多くの選手はJリーグで活躍していました。海外で活躍する選手と日本で活躍する選手の間に深刻な摩擦が生まれて、チームとしてのパフォーマンスが大きく下がってしまった時期もあったのです(ドイツワールドカップ一次リーグ敗退)。

 その後、さらに日本選手全体のレベルアップが進み、より多くの選手が海外の有力チームで活躍するようになりました。そこで得た新たな知見を日本代表に持ち込むようになった今では、個々の選手の高い能力を基礎におきながら、全体としていかに融合していくかに焦点が絞られつつあります。いわゆる多くの選手が「統合律」段階に入りつつあるのです(2013年現在)。

 この段階になると、選手たちのコメントそのものが随分レベルの高いものになります。

 たとえば、本田圭佑選手は、「W杯優勝、そしてコンフェデ杯優勝を目標にしているが、チームとして、そして個人として何が必要か?」という質問に対して次のように答えています。

 「シンプルに言えば個だと思います。個というのは、昨日GKの川島選手がしっかりと1対1を止めたところをさらに磨く。今野(泰幸)選手がケーヒルに競り勝ったところをさらに磨く。(長友)佑都と(香川)真司がサイドを突破したところ、そこの精度をさらに高める。ボランチの2人がどんな状況でも前線にパスを出せるように、そして守備ではコンパクトに保ち、ボール奪取を90分間繰り返す。岡崎選手や前田遼一選手が決めるところをしっかり決める……。

 結局、最後は個の力で試合が決することがほとんどなので、むしろ日本のストロングポイントはチームワークですが、それは生まれ持った能力なので、どうやって自立した選手になって個を高められるかというところです」(ブラジルワールドカップ出場決定記者会見 2013年6月5日「スポーツナビ」より)

 自己を限りなく強くする。そして、チームの勝利のために最善を尽くす。過去の日本企業の文脈で解釈すると、個人が個人としての能力向上に走ることは、チームワークをおざなりにし、チームとしてのパフォーマンスを下げる方向に行くように思えます。しかしながら、本田選手は個々人の発展こそが組織の発展につながると言っているのです。

 一人前レベルの選手で構成されていても、チーム全体の戦術眼が共有され、それぞれがしっかりと役割を果たせば、ワールドカップの一次リーグは突破できるかもしれません。

 しかし、その上をめざそうとすれば、個の能力に優れた一流が集まり、チームの勝利のために個人がもつ一流の技術をすべて発揮しないと、ベスト4以上に勝ち進むことはできないというのです。

 一流の人たちが共通のゴールに向けて能力を発揮することで、組織としての厚みが増し、さらに個人にも新たな成長を生み出す。この段階こそが、組織として統合律を達成できた段階であり、また、こういった組織を形成することがどのようなものかを知る人こそが、大人の組織の真のリーダーの役割を果たすべきではないかと思うのです。

 


<書籍紹介>

「一体感」が会社を潰す
異質と一流を排除する<子ども病>の正体

秋山 進 著

「感情的な議論」「身内のルール優先」「自社にしかわからない言葉を使う」……「子どもの論理」ばかりで動く組織に警鐘を鳴らす。

<著者紹介>

秋山 進

(あきやま・すすむ)

プリンシプル・コンサルティング・グループ〔株〕代表取締役。

リクルート入社後、事業企画に携わる。独立後、経営・組織コンサルタントとして、各種業界のトップ企業からベンチャー企業、外資、財団法人など様々な団体のCEO補佐、事業構造改革、経常理念の策定などの業務に従事。現在は、経営リスク診断をベースに、組織設計、事業継続計画、コンプライアンス、サーベイ開発、エグゼクティブコーチング、人材育成などを提供するプリンシプル・コンサルティング・グループの代表を務める。京都大学卒。国際大学GLOCOM客員研究員。麹町アカデミア学頭。
著書に『それでも不祥事は起こる』『転職後、最初の1年にやるべきこと』(以上、日本能率協会マネジメントセンター)、『社長!それは「法律」問題です』『インディペンデント・コントラクター』(以上、共著、日本経済新聞社)、『愛社精神ってなに?』(プレジデント社)などがある。

 

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