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レゴブロックに学ぶリーダーシップの法則 ~組織と自分を変えるヒント〔第1回〕

ケン・パールマン(コッター・インターナショナル所属の経営コンサルタント)

2014年03月06日 公開 2023年01月12日 更新

ケン・パールマン

『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年3・4月号Vol.16より》

この記事は2013年9月24日にForbes.comに掲載されたものを原著作者の許可を得て日本語に翻訳したものです(本記事の原典=英文はこちら)。
コッター・インターナショナル提供/翻訳:島田亮司>

 

◆ジョン・P・コッターからのプロローグ◆

私の同僚、ケン・パールマンは2人の娘さんを持つ献身的な父親です。ケンは父親という家庭での役割を通して得た教訓が、ある程度ながら、自分がクライアント企業にリーダーシップの改善を助言するときに役に立つと感じています。さまざまな形のレゴブロックを娘たちと組み立てて遊ぶことと、クライアントに根本的な組織変革を指導していくこととのあいだに、ケンはどんな類似点があると思っているのでしょうか。

 

 私が娘たちとレゴブロックで遊んだある週末の3日間に気づいたこと。それは、この遊びを充実したとても楽しいものにすることと、クライアント企業に組織変革の実行を手助けすることは相通じるということです。

 私たちは、“楽しむ”と“変革”という表現が、同じ文章で使われるのをあまり見かけることはありませんね。しかし、私が娘たちとレゴブロックで遊んだ週末をすばらしいものにできた法則のいくつかは、私のクライアント企業にも応用することができるのです。これらの法則は現在、私のクライアントで大きなところ(世界で何千人もの従業員を抱えている会社)から小規模なところ(数百人程度の従業員がいる事業所)まで、実際に活かされています。

 では早速、レゴブロックに学ぶリーダーシップの法則を紹介しましょう。

 

法則1: 最初に成功の形をイメージする

 レゴの商品の箱には完成時のイメージ写真が印刷されています。いずれもすばらしい出来栄えで、見ているととてもワクワクします。ただし、箱の中に入っている袋の数やブロックの数、手順などはほとんど示されていません(こうした情報はワクワク感をぶち壊しにするだけでしょう)。それにきっとみなさんは、商品を購入する前から、でき上がりの形に心を奪われているでしょうし、購入してつくり始めたら、完成まで〝もうあとちょっとのところだ〟という気分になるでしょう。

 それはなぜかというと、すでにでき上がって成功したときの“すばらしい形”を心に描いているからです。

 ところで企業経営において多くの場合、経営陣は完成したイメージを基に社内に勢いをつくり上げていくようなことはしていません。むしろ時間と手間暇がかかり、従業員の自信をなくさせるような、とてつもない戦略を考案して日々活動しています。そうした戦略はワクワク感をしぼませてしまいます。成功した鮮明な(すばらしい)イメージを描いたり見せたりすることはほとんどありません。しかし、実は、レゴの完成品のようにイメージさせることこそが人々を惹きつけ、時間をかけてすべてのブロックを組み合わせ、成功を実現するための意欲をかき立てることにつながるのです。

 

法則2: 足りないものは代用する

 レゴをつくっているとき、ごくまれではありますが、レゴブロックが足りなくなることがあります。しかし、こうした難局に直面しても、娘たちはひるんだり、あきらめムードに陥ったりすることはありません。逆に、“イノベーションムード”に入ります。スペアのブロックが入った箱を引きずり出してきて、その中から代用できるものを探してつくり続けます。

 組織変革ではどうでしょうか。会社の同僚が今までいったい何度、「それはうまくいかないよ。なぜなら……」とか、あるいは「それはすでに試してみたよ」と言ってきたことでしょう。もちろん、そうした“口実”により、時に、昔の過ちをくり返さずにすんだこともあるでしょう。しかし、もう一度過去に戻って昔のブロック(つまり教訓、知恵や功績)を再度当てはめてみようとすることはあまりしないのではないでしょうか。

 しばしば私たちは、使える道具、人などの社内外のリソース(資源)や教訓を忘れています。忘れているだけでしかし、それは実際は近くに存在しているのです。そうしたリソースが詰まった昔の箱をほとんど使おうとしないだけなのです。

 

法則3: 説明書は役立つけれども

 説明書はすばらしい、通常は……。しかし、レゴでいえば、どの丸いブロックがどの四角い穴に入るか判断がつかないことがあります。私は説明書を何度もめくったり、先に進んで別のイメージを確認したりしてしまいます。ところが、娘たちは単純に自分たちができる最高のものを組み立てていきます。「それを試してみて、うまくいくか見てみよう!」と言ったりしています。この恐れを知らないチャレンジは、イノベーションを加速するためにとても重要な要素なのです。

 起こりうる最悪のこととは何でしょうか? レゴについていえば、結局のところ何もありません。これに対して多くの事業や会社においては、もちろん、実際にリスクが存在します。しかし、もしかしたら多くのリスクと考えられているものは、しばしば、予測できない結末ではなく、実は人から見られて間違っていると思われることではないでしょうか。ですから、もしそうした恐れを取り除くことができれば、スピード感を持ってチャレンジし続ける能力が向上するはずです。指導する立場にある人は、チャレンジし、学び、そして形づくる人たちを勇気づけたり、それに報いたりすることが大切なのです。

 

法則4: 一緒に働く人が多ければそれだけ楽しい

 自分ひとりでレゴに取り組むのはとても面白いことです。しかし、娘たちと一緒に体験を共有する(正確には、娘たちが私と体験を共有すると言ったほうがいいでしょう)ことのほうがよりいっそう面白いものです。

 私のクライアント企業は、100人に1時間ずつ自発的に協力してもらうほうが、ひとりに100時間割いてもらうことよりも簡単だと言います。異なる人々、さまざまな観点や経験によって自由闊達なコラボが実現するのです。それぞれの参加者が異なる力を発揮することで、迅速で無理のない、のびのびしたイノベーションを可能にするのです。

 

法則5: でき上がりの質は想像力次第

 私が子どものころは、レゴにはカスタムパーツがほとんどありませんでした。タイヤやフロントガラスぐらいだったでしょう。今では、実にたくさんのカスタムパーツがあります(道具類、縦に開閉するコックピット、 武器の発射台など)。しかしそれでも、娘たちは変化を加えます。彼女たちに言わせれば、“改善”を加えるのです。

 娘のひとりはせっかくつくり上げたレゴのバイクを、堅い木製の階段に落として壊してしまいました。ですが意気消沈することはありませんでした。彼女はこれをいい機会と見たのです。「よし、これでもっといいものがつくれる。もっと早く動いてほしかったのに、重すぎたんだよね」と言ってのけたのです。彼女はいらない部分をそぎ落として軽くし、もう一度組み立てなおしてしまいました。つまり大事なことは、結局のところつくり手の想像力なのです。

 

 さて、指導者の立場にある読者の方は、会社がどのように大きな変化を遂げていくか、その雰囲気をつくることができるのです。従業員に対して、あなたは恐れのない(しかしきちんとした情報に基づいた)チャレンジやイノベーションの機会を与えることもできれば、説明書を掲げて「そうしたやり方は間違っている」と言うこともできるわけです。そのどちらを選ぶかはあなた次第です。

 

☆コッター・インターナショナル提供「組織と自分を変えるヒント」は 『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』で今月号から連載が始まりました。


 

コッター・インターナショナル(Kotter International)
ハーバードビジネススクールで30年間教鞭を執り、リーダーシップ論の名著を多数出版したジョン・P・コッター教授が、直面する難局に取り組むリーダーを支援するために設立したコンサルタント会社。競争に打ち勝つ、新商品を市場に出す、あるいはリスクを回避するために、組織の戦略実行を助け、ビジネスの難局に立ち向かい迅速に対応できる手立てを整えます。

■ジョン・P・コッター
コッター・インターナショナル代表。2001年までハーバード・ビジネススクール冠松下幸之助講座リーダーシップ教授を務めた。著書に『Matsushita Leadership』(邦訳『幸之助論』(金井壽宏監修、高橋啓訳、ダイヤモンド社)などがある。

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