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「中途ハンパ」が直る! 心理テクニックとは

伊東明(心理学者/東京心理コンサルティング社長)

2014年04月01日 公開 2023年01月31日 更新

伊東明

《『「中途ハンパ」は必ず直る!』より》

 

 結局のところ、みんな「中途ハンパ」には身に覚えがあるのではないでしょうか。「すべてを完璧にやり遂げられる人」なんていないはずですし、そんなムリなことを目指す必要もないはずです。誰しも、何のことにせよ、多かれ少なかれ「中途ハンパ病」にかかっているのです。

 では、あきらめて、何事にも一生中途ハンパな状態で人生を送っていけばいいのでしょうか?

 私は違うと思っています。今よりほんの少しでも「中途ハンパ」が直ったら、人生が少しでも……いや、劇的に良い方向に向かう人がたくさんいると強く信じています。

 詳しくは本文中で述べますが、中途ハンパの逆である、

 (1)「何かを実行する力」(実行力)

 (2)「継続して物事をやり遂げる力」(継続力)

 (3)「実行したことによって成果を上げる力」(成果力)

 の3つを手に入れることにより、仕事でもお金でも、趣味でも資格でも、健康でも家庭でも何でも、人生全般においてもっともっとたくさんのものを手にすることができるはずです。

 たとえ今は少しの小さな変化でも、それはやがて大きなうねりとなり、「中途ハンパ」を少しでも克服したかどうかで、気がつけば人生に決定的な差がついているのです。

 

やる前はメリットばかり思いつき、始めるとデメリットばかり思いつく

 中途ハンパな人というのは、最初の勢いは概して良かったりするものです。

 40代半ばのAさんもその1人。小さなIT系の会社を経営している、私の大学以来の友人です。

 「3年前ぐらいまでは、ほんと、何かにパッと手を出してはすぐにやめてしまうという繰り返しでした。いや、最初の勢いはすごくいいんですよ。僕の長所でもあると思うんですけどね、もちろん、短所でもあります(笑)。

 たとえば、テレビを見ていて、自分が若い頃に聴いていたアーティストとかがかっこよくギターを弾いていたりするでしょ。そうするともう、『ギター、やるしかないでしょ!』みたいに思うわけですよ。で、明くる日には、もう楽器屋に行っていると。そして、押し入れ行きになる。

 まあ、そういう趣味的な話の場合はまだいいんですけど、会社の経営者としてはまずいですよね。何かアイデアを思いつくと、「よし、次はこれをやるぞ!」とか盛り上がっちゃって、社員たちにそれを披露する。確かにそのときは「このアイデアはいける!」と思うわけです。自分なりにちゃんと理由を考えたり、分析もしているつもりですし。

 でも、しばらくすると段々、社員には言えませんが、『やっぱりダメなんじゃないの?』とか『やらないほうがいいかも』と思えてくるんですよね。最初は社員たちに『スピードが勝負だ。早く取りかかれ』みたいな号令をかけていたのに、急に『ムリしなくていいよ』みたいにトーンダウンしちゃって。お恥ずかしいかぎりです。

 最近、そうしたクセが直ってきたのは、ひとえに妻や社員たちのおかけです。妻からの『どうせすぐにやめるんでしょ』というお叱りとか、社員たちの『あーあ、また社長が何か言ってるよ。どうせ続かないよ』みたいな冷ややかな視線のおかげで、随分と自制が利くようになってきたものです」

 Aさんほどではないにしても、次のようなクセを持っている人は多くないでしょうか。

これをやってみよう!と思いつく。
     ↓

その瞬間やしばらくは「それをやるべき、素晴らしい理由」(それをやるメリット)がたくさん思い浮かぶ。
     ↓

テンションが一気に上がる。
     ↓

テンションが落ち着いてくると、今度は、「それをやるべきじゃない理由」(それをやるデメリット)が段々と思い浮かんでくる。
     ↓

やる気や気持ちがトーンダウンする。
     ↓

終了。
  

 「最初の勢いはあるけれども、続かない」というタイプの中途ハンパ病の人は、多かれ少なかれ、こうした傾向があるのではないでしょうか。

 そんな人たちに知っておいてほしいのは、「選択的抽出」(selective abstraction)という心理メカニズムです。

 文字を見るとなんとなくわかるかと思いますが、ある物事の一部だけに無意識に目を向けてしまうことを言います。

 たとえば、恋愛関係を考えてみましょう。「あばたも、えくぼ」という言葉があるくらい、いったん「この人を好き、この人が運命の人だ!」と思うと、何もかもがよく見えてくるものです。相手の素晴らしい点ばかりが見えたり、思いつくようになります。

 ところが、いったん「この人とはうまくいかない」と思うと、何もかもとまでは言いませんが、段々と相手の悪い点や、自分とは合わない点が、見えたり思いつくようになるものです。今まで良いと思っていたことでも、逆に悪く思えてくることさえあります。

 たとえば、好きと思っていたときは「彼の趣味は料理」だったのが素敵と思っていたのに、好きでなくなってくると、「男らしさが足りない。料理ばっかりしているからダメなんだ」みたいに思えてくるものです」

 同時に、「そういえば、彼のこういう点もダメ、こういう点もダメ、そもそもなんでこんな人とつきあったんだろう?」となったりします。

 恋愛相談を受けていると、その極端な「豹変」ぶりには驚かされることしばしばです。

 恋愛以外でも、相手が部下でも上司でも、友人でも知り合いでも何でも、そういったことが起きやすいのは、想像に難くないでしょう。

 そして、人間関係だけでなく、たとえば入社する前は会社や仕事の良い点ばかりが浮かんでいたのに、いざ実際入社してみたら、仕事がきつくなってきた→会社のイヤな点ばかりが見えてしまう、というように、物事においてもそれはあてはまるのです。

 すなわち「最初の勢いはいいけど……」系の中途ハンパ病の人は、何かを実行する前は、良い部分(メリット)ばかりを選択的に抽出するクセがあるのです。

 そして、逆に、実行し始めると、悪い部分(デメリット)ばかりを選択的に抽出するクセがあるのです。

 だから、最初の勢いは人一倍良い反面、トーンダウンの度合いも人一倍大きくなってしまうのです。

 そのメカニズムさえわかれば、対策は難しくありません。

 本当は初めから、それをやるメリットだけではなく、少しだけでもデメリットも混ぜて考えられるようにするといいのですが、このタイプの人というのは、それでは「エンジンがかからない」ことになって、何かをやる気力そのものを失ってしまいかねません。ですので、それについては、今まで通り、気分が盛り上がるままにメリットをあれこれと考えたらよいと思います。

 ただ、デメリットが思いつき始めたら、次のことを習慣にしてみましょう。

 「デメリットをひとつ思いついたら、即座にメリットをひとつ思い浮かべる」

 たとえばですが、マラソンを始めようと気持ちが盛り上がったとします。最初は、マラソンの素晴らしさがたくさん見えてきます。

 しかし、ちょっとトーンダウンしてきました。デメリットが思いつき始めました。

 

「マラソンもいいけどなあ、実際に始めたら、時間を取られそうだな。忙しくなってしまうかも」(デメリット)。
         ↓

「マラソンをやることで基礎体力がつけば、仕事にも必ず役立つはずだ。基礎体力は、あらゆる面に活きてくるはずだし」(メリット)。
 

「ウェア代とか、スポーツドリンク代とか、意外とお金がかかるかもな」(デメリット)。
         ↓

「仲間ができるのはいいことだよな。幸いなことに、会社の○○さんのマラソン仲間に入れてくれるつていうし。仕事以外でも仲間を作ることは大事だよな」(メリット)。
 

 ポイントは、デメリットを思いついたら「即座に」メリットを思い浮かべるということです。思考というのはものすごいスピードで進むものですから、ちょっとでも油断すると、どんどんデメリットばかりが自然に浮かんできます。それに伴って感情も沈んできて、思考だけでなく、身体全体が「やりたくないよ」「やらないほうがいいよ」となってきます。それに負けないよう、すぐにメリットを思い浮かべることで、方向転換を図るのです。

 

<書籍紹介>

「先のばし」の人生から、「やりとげる」人生へ
「中途ハンパ」は必ず直る!

伊東明 著

「どうしても片づけられない」「ダイエットや勉強が、長続きしない」というあなたへ。必ず「続ける力」が身につく心理習慣を紹介。

 

<著者紹介>

伊東 明

(いとう・あきら)

心理学者、〔株〕東京心理コンサルティング代表取締役社長

早稲田大学卒業後、NTT勤務を経て、慶應義塾大学大学院にて博士号を取得。「ビジネス心理学」ならびに「男性・女性心理学」の研究を中心として、企業研修・コンサルティングからテレビ・ラジオ・雑誌等のマスコミまで幅広く活躍中。
『「聞く技術」が人を動かす』(光文社)、『「できない」が「やってみよう!」に変わる心理法則』(講談社)、『あなたの「キレイ」がめざめる本』『男は3語であやつれる』(以上、PHP研究所)ほか多数の著書がある。

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