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自主責任経営・個性派社員を暴れさせるビームスの流儀

設楽洋(ビームス社長)

2014年05月02日 公開 2024年12月16日 更新

《『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』 2014年5・6月号Vol.17[特集]実践! 自主責任経営 より》

 

――社員皆が「この指とまれ」の主人公

セレクトショップ大手のビームスは、浮き沈みの激しいファッション業界にあって、個性あふれる社員の感性や趣味を生かした店づくりを進め、堅実な成長を続ける。長いあいだ、「わざわざ来てもらえるお店であれ」を合言葉にあえて一等地には出店せず、裏通りにばかり店を出してきたところにも、個性を大事にするこだわりが見える。商品の仕入れ、開発から店舗経営まで、社員に大きな権限を与えて任せ、社員の個性を生かしてきた同社の“流儀”とは。

<取材・構成:江森 孝/写真撮影 まるやゆういち>

 

100人の社員がいれば100種類のビームスがある

 ビームスは、今から38年前、私が25歳のときに東京・原宿でスタートしました。ちょうどアメリカン・ファッションを紹介して若者社会に影響を与えた雑誌『ポパイ』の創刊と同じ1976(昭和51)年のことで、わずか6坪半の小さな店でした。

 今でこそ、セレクトショップとか、ファッションの店ととらえられていますが、当時は屋号の上に“アメリカンライフショップ”とついていました。私自身はまだアメリカに行ったことはありませんでしたが、テレビのホームドラマで見たアメリカの生活に憧れて、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の学生の部屋を再現した生活提案型の店にしたかったのです。

 そのころのインポートものというと、グッチやエルメスといった、今でいうスーパーブランドか、あるいは米軍放出品のどちらかで、その中間のものはどこを探しても手に入りませんでした。ないのだったら、自分で買ってきて始めちゃおう、というのがスタートでした。当時は、自分のフィルターを通してモノを集めて、「ぼくの感性に賛同してくれる人、この指とまれ!」といってお客さんを集めるような商売でした。何でも()う百貨店ではなく、ウチは“十貨店”でいいじゃないかと。

 それが、だんだん規模が大きくなると、いろいろなタイプの人間が入ってきて、まるで動物園のようになりました。社員それぞれによって大好きなものが違って、たとえばそれがアウトドアだったり、サーフィンだったり、フィギュアだったり、女性社員ならアロマだったり。そういう連中がみんなバイイング(仕入れ)に参加している、つまり社員一人ひとりが「この指とまれ」をやって、お客さんに向けて自分の感性を投げかけ提案している集団なのです。その点をとても重視していて、私が「100人の社員がいれば、100種類のビームスがある」と考えるゆえんです。

 ビームスは全国に百数十店舗ありますが、それぞれ顔が違います。同じジャケットを飾っても、渋谷、原宿、銀座、それぞれの店で違うものに見えます。それは、そこで働く人間がそれぞれ「この指とまれ」をやっているからです。そのためマニュアル化や効率化は非常に苦手で、リスクやロスはかなり多いのですが、浮き沈みの激しいファッションの世界で38年間、なんとか生き残ってこられたのは、もしかしたらそれがポイントではないかな、とも思います。いちばん大切なのは″人”なんです。

 世の中のほとんどの仕事は、経験と年齢が増すほど重要なポストに就いて、握るお金も大きくなるものですが、この業界はそうじゃないんです。年を取るごとに感性が衰えるからです。私は40代になったときに、それを感じました。

 それ以来、仕入れはすべて社員に任せています。若い社員ほどすごい額の資金を扱っていて、いちばん多い社員は年間30億ぐらいでしょうか。だから、一度不安になると、眠れなくなってしまいます(笑)。でも、自分がやったのでは“遅れて”しまうので、若い社員にやらせる。これは、私自身にとっては大きなジレンマです。

 社員が仕入れに失敗すれば、その年の査定に影響することはありますが、だからといって一度の失敗で終わり、ではありません。失敗しても、3回まではやらせます。そうした”挑戦させる風土”が、ビームスにはあると自負しています。

 

たとえ売れなくても“種まき”は欠かせない

 ビームスのマーケティングは、「気づきのタイムラグ」という考え方です。たとえば、ネクタイの太さや口紅の色の流行の変化にいつ気づくかは、当然人によって違います。早く気づくのは少数派で、遅い人が断然多い。一般的な消費のピラミッドは、上から順に「プレステージ」「ベター」「マス」という3層に分けて論じられます。

 それに対し、ビームスが考える「気づきのタイムラグ」のピラミッドは5段階です。頂点にいるのは「サイバー」と呼ばれる人たちで、次に「イノベーター」がいて、3番目に「オピニオン」が来ます。オピニオンは、一般には流行に敏感な人たちのように思われていますが、実は彼らは上のサイバーやイノベーターを見ているのです。そして、オピニオンの下に「マス」という膨大な層があり、いちばん下にはさらに膨大な「レイター」という層があります。

 面白いのは、だれもが自分を実際より一段上だと思っていることです。それでいて、絶対に上の層には上がれません。流行というのは、上から下に“落ちてくる”もので、最近自分がおしゃれになったと感じるとしたら、それはただ、流行が落ちてきただけなのです。

 サイバーやイノベーターを、私たちは“早い人”と呼んでいますが、彼らは下の層にいる人間から見ると、おしゃれかどうか分からないような、変な格好をしています。私たちからしても、実は彼らは商売にはなりません。ただし、そういう人向けに“種まき”はしておかないといけない。つまり、“早い人”が手に取って、ウーンと悩んだ末に棚に戻すような商品を店に置いておくのです。そうした〝種まき商品〟というのは、その年にはほとんど売れませんが、次のシーズンに爆発的に売れたりするのです。POS(販売時点情報管理)システムのデータだけを参考にしていると、こういった商品は消えてしまいます。でも、こういった商品を手に取るお客様は大事にしないといけない。だから、これもジレンマなのですが、“早い人”のために、売れないと分かっている商品を常に置いておくのです。

 店のスタッフが見れば、だれが“早い人”なのかは勘で分かりますし、そういうお客様は頻繁に来店されます。そのため、私たちがいちばん重視しているのが店頭での定点観測で、毎週月曜日の店長会議では、そうしたお客様の動向や声を分析します。

 私たちが動向をつかんでおきたい、旬に敏感な“早い”お客様は、大量には必要ありません。数十人で十分です。当社の会員制度「ビームスクラブ」にしても、会員数は約140万人と、クレジットカード会社の会員などと比べれば数は少ないものの、当社のお客様は世間一般よりものごとに“早く”反応する人たちですから、そのデータの価値は、140万人の何十倍にも匹敵するだろうと思います。

 

ビームスの存在意義は若い人がちょっと幸せになること

 “種まき”と同じようにむずかしいのが、商品の“引き際”です。

☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。

 

<掲載誌紹介>

2014年5・6月号Vol.17

5・6月号の特集は「実践! 自主責任経営」

「自主責任経営」とは、“企業の経営者、責任者はもとより、社員の一人ひとりが自主的にそれぞれの責任を自覚して、意欲的に仕事に取り組む経営”のことであり、松下幸之助はこの考え方を非常に重視した。そしてこれを実現する制度として「事業部制」を取り入れるとともに、「社員稼業」という考え方を説いて社員個人個人に対しても自主責任経営を求めた。
本特集では、現在活躍する経営者の試行や実践をとおして自主責任経営の意義を探るとともに、松下幸之助の事業部制についても考察する。
そのほか、パナソニック会長・長榮周作氏がみずからを成長させてきた精神について語ったインタビューや、伊藤雅俊氏(セブン&アイ・ホールディングス名誉会長)、佐々木常夫氏(東レ経営研究所前社長)、宇治原史規氏(お笑い芸人)の3人が語る「松下幸之助と私」も、ぜひお読みいただきたい。

 

BN

著者紹介

設楽 洋(したら・よう)

ビームス社長

1951年東京都生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、電通に入社。イベントプロデューサーとして数々のヒットを飛ばす。’76年同社勤務のかたわらビームスの設立に参加。’83年電通を退社し、ビームスの専務取締役に就任。’88年より社長。

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