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堀場製作所の「リーダーを育てるユニークな方法」とは

2014年06月09日 公開

堀場厚(〔株〕堀場製作所代表取締役会長兼社長)

《PHP文庫『難しい。だから挑戦しよう』より》


 堀場製作所にはユニークな社是がある。

 「おもしろおかしく」

 これは創業者であり父でもある掘場雅夫が、昭和53年(1978)、社長から会長に就任したのを機に考えたものだ。その意味は非常に明快で、仕事は「おもしろおかしく」なければ独創的にはならないということ。

 つまり、

 「人生のなかでもっとも活動的に、多くの時間を費やす仕事にプライドとチャレンジマインドを持ち、『おもしろおかしく』エキサイティングに取り組むことによって人生の満足度を高め、人生そのものがおもしろおかしいものとして充実させられる」

 と私たちは考えている。

 いまでこそ社員にも社外的にも愛され、有名になった社是だが、つくった35年前は「吉本興業じゃあるまいし、もっと真面目に」という批判もあった。「誠意」「信頼」「責任」「奉仕」「顧客第一」「社会貢献」というような、対外的に立ち位置を表明する社是が一般的な時代だったから当然だろう。

 しかし、そんな時代に父は「おもしろおかしく」という、どちらかといえば対社内的な、働く自分たちを鼓舞するような言葉を社是に掲げた。

 そして事実、この社是こそが、堀場製作所の「HORIBAスピリット」そのものとなっていった。経営者側は社員一同がいきいきと働ける環境を整え、従業員側はそれに応えるように積極的にアイデアを提出、クリエイティビティの高いものづくりを日々実感できる会社へと変容していったのだ。


 

リーダーを育てる

 

堀場式「人財再生」の方法

 私は失敗したらポジションを落として配置し、そこから再チャレンジさせるという「再生」を信条としている。これで人は必ず成長する。

 しかし大事なのが、失敗後の環境だ。その人を指導できる人のもとに置くとか、その人の良さを発揮できるポジションに置いてあげないといけない。同じ部署やポジションに置いて再起せよというのは、いろんな意味で難しい。環境を変えてあげることが鉄則だ。

 「飴と鞭」という言葉があるが、それほど単純なことでもない。一般的には失敗して怒られるのが鞭で、「次のところで頑張れよ」と言われるのが飴かと思うかもしれないが、むしろ後者が鞭なのではないか。だがチャンスであることも事実だ。

 やはり可能性のある者に対してはチャンスを与えるし、期待もかける。「何も言われないようになったら最後やで」「怒られているうちが華やで」と私は部下によく言っている。

 もちろん失敗を原因としない配置転換もある。

 自動車の運行管理システムでなかなか成果を出せないでいる部署に、放っておいても売れる製品を担当していた人間をシフトした。以前のマネジメントが開発した製品が品質問題を起こし、なおかつ商品代金の不払いという問題もあった。当然彼の責任ではないが、「社長申し訳ないことでした。取り戻してきます」と言って懸命に働いている。

 この配置転換はおわかりのとおり、一番優秀な人財を修羅場に近い負け戦のマネジメントに充てたということだ。

 普通は優秀な人財を自分の横に置いて、二流どころを負け戦に投入する。それで余計に負ける。だが、一番優秀な人を持ってきて、潰さないように思いきった資金のフォローアップをすれば、必ず何らかの打開策はあるものだ。これが二流どころを持ってくると、危ないと思ってこちらも思い切れない。同じ泥舟に乗るのであれば、一流の人財を乗せてエンジンを装着してやって、とにかくフルスロットルで走れるようにするのが一番良い方法だ。失敗したら一緒になって「残念だったな」と笑い合えばいい。

 一流は「花形の僕がなんで泥舟に乗せられたんか」とは思わない。堀場製作所でいまトップにいる人間は、少なくとも一度は泥舟に乗せた人財ばかりだ。その泥舟をきっちりと浮かせた人間をトップに抜擢している。

 泥舟にあえて一流を乗せるのは、それが危機だからだ。企業の危機を救えるのがエリートであり幹部である。上手くいっていることを上手くやるのは新入社員でも二流どころでもできる。危機に一番優秀な人を放り込む、最前線に一番大事な信頼できる人間を送り込むというのが、企業の理想である。

 ところで最前線で闘える精神力は誰でも先天的に持っている。問題はその一歩が踏み出せるかどうかだろう。

 それには踏み出すことが大切だよと言い続け、自ら示してあげることが肝心だ。いつまで経っても踏み出せない、踏み出し方がわからないという人がいれば、ぽんと背中を押してあげることも必要だし、あがいている人には、むしろそんなにバタハタするなと忠告することもある。とにかく、いざとなったら最前線に行って対応できるという人が、すなわちリーダーシップを持っている人なのだ。

 24時間365日しかないなかで、夢を具現化したいなら人に仕事を任せないといけない。逆に任せられる人がいれば、自分のやりたいことができる。そういうリーダー格の社員をどれだけ持てるかが経営者の力量だろう。

 優秀な人に多いのが、部下を信頼できずに自分でやってしまう人だ。部下も自分が上司に信頼されていると思わないと一生懸命に仕事をしない。スーパーマンはもともといない。部下の得意分野は何かを知って任せないといけない。逆を言えば、それを考えるのが上司の貴任だし役目なのだ。

 話が少し脱線するが、過去にある会社から10億円の損害賠償を求められたことがある。担当者と弁護士はその訴訟に「絶対に勝つ」と言っていたが、あっさりと完敗した。私は「このひどい負け方を読めないような人は絶対にあかん」と思い、担当者とその弁護士をはずした。

 そして新しい弁護士を紹介され「堀場さん、この問題どう思いますか」と訊かれたとき、「私はこちらが正しいと思うので徹底的にやります」と伝えた。裁判所が「3億で和解しませんか」と言ってきたときにも「和解しません。徹底的にやります」と弁護士に伝えた。そしてその弁護士は、最終的に10億すべてを取り戻してきた。

 これは互いに波長が合ったケースだ。弁護士も「こんな経営者見たことがない」と言い、私も「3億の和解で手を打ちましょう。7億セーブできるからいいじゃないですか」と言わない弁護士をすごいなと思っていた。私と弁護士はこの訴訟の内容を熟知し、「絶対に間違っていない」という信念でともに闘い、そして勝利を勝ち取ることができたのだ。

 こういう闘争心はすごく大事だと思う。リーダーシップの資質のひとつに加えるべきだろう。

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