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堀場製作所の「リーダーを育てるユニークな方法」とは

堀場厚(堀場製作所会長兼社長)

2014年06月09日 公開 2023年01月16日 更新

 

適材適所の見分け方と数字の立て方

 適材適所というのは、チームの1人ひとりの得意不得意を上手くモザイクのように組み合わせられるかということだろう。ステンドグラスの例を出したが、それは城壁を築くようなものでもある。その場で石のでこぼこを修正し、擦り合わせながら組み上げていく。最初からすべて設計図どおりに石を用意して組み上げるわけではない。

 しかしときどきピッタリとはまる人もいる。だからある程度の企業スケールに持っていくというのは大事なことだ。小さな企業だとどの人を充てるかは、ほぼノーチョイスだが、ある程度の企業スケールになれば、はまるポジション、はまる仕事、はまるチャンスを見つけられる場合も多い。

 リーダーが部下に数字を達成させるには、これも数字の組み上げ方に秘密がある。

 最初は当然部署ごとに組み上げていく。次にそれを合計したときに、目標の数字に届いているかどうかを見る。少し足らないのであれば、それぞれの部署が数字を控えめに出しているのか、わりとアバウトに出しているのかを見極め、上げ下げの的確な指示を出す。

 その際に、数字に対するオーナーシップをどう持たせるかが肝心だ。

 不思議なもので、ある程度の時間をかけて数字を詰めていくと、「与えられた数字」が「自分の数字」に必ずなる。そして最後にすべての数字を組み上げ、外向きの数字にする。その時間と手間をかけないと、数字に対するオーナーシップは生まれてこない。

 かくいう私も社長になるまでは中長期の経営計画などは絵に描いた餅だと思っていた。「社長が言っているしそれに合わせとこか。どうせそこまでいかへんし」と不遜にも考えていた。当然、首尾よく達成した年など一度もなかった。だからいま部下がどのような気持ちなのか手に取るようにわかる。その自身の経験を逆手に取って、数字を「自分の数字」にしていく方法を編み出したというわけだ。

 これも不思議なことだが、中長期の経営計画も目標とする数字がないとまったく達成しない。ゴルフで譬えるなら、単なる芝生の広場では、人はボールを打てない。だが、目印となるピンのフラッグがあると、そこを目標として飛ばすことができる。

 営業利益も同じことだ。現在掘場は10%の営業利益を目指して、ほぼ達成できている。もともと利益率は良いときでも5%程度だったのだが、「私たちは優良グローバル企業として10%を目標にしている」と言いつづけると、「そんなん絶対無理」とぼやいたり、「5%で十分」とうそぶいていたりした各事業セグメントやグループ会社の責任者たちの意識も変わり、「どうやったら10%に近づけるか」を考えはじめる。数値目標は決して馬鹿にしてはいけない。

 過去には、陸上競技男子100メートル競走で「10秒の壁」というのがあった。しかし昭和58年(1983)、カール・ルイスが平地で 9秒97を記録。同年にカルヴィン・スミスも平地で 9秒93を記録し、その後1980年代に多くの選手が追随するように10秒の壁を破っていった。

 壁は人の意識のなかに存在する。「無理」と思えばいつまでも無理だし、「無理ではない」と信じれば自らその壁を突破できる。

 コンマ1秒もしくは1000億円を、「数字は数字」と思う人も多いかもしれない。しかし実際に意味があることはおわかりいただけたと思う。

 私自身もここ10年で数値目標の大事さが身に染みてわかった。特に大勢の人を動かそうとすると、数値目標は原動力となり、達成できたときの感動となる。企業にはいろんな考え方、いろんなジャンル、いろんな専門分野があるが、数字という単純明快なもので目標を掲げれば、同じ企業体に属する人たちは、一緒のベクトルでターゲットに向かって努力することができるのである。

 

<書籍紹介>

難しい。だから挑戦しよう
「おもしろおかしく」を世界へ

堀場厚 著

グローバル企業・堀場製作所を率いる2代目社長の堀場厚氏。世界トップシェアを誇る超優良企業を育てたユニークな経営観を語る好著。

<著者紹介>

堀場 厚

(ほりば・あつし)

株式会社堀場製作所代表取締役会長兼社長

1948年京都生まれ。1971年、甲南大学理学部を卒業後、オルソン・ホリバ社(米国)入社。翌年、堀場製作所に入社し、アメリカの子会社出向。かたわら1975年カリフォルニア大学工学部を卒業、1977年にカリフォルニア大学大学院工学部電子工学科を修了し、堀場製作所海外技術部長となる。1982年に取締役海外本部長、1988年専務取締役営業本部長を経て、1992年より代表取締役社長。2005年に会長兼務となり現在に至る。
カリスマ創業者の堀場雅夫最高顧問を父に持つ2代目。しかし社長就任以来、22年で売上高3倍以上、27力国に拠点を持つ世界的企業に会社を成長させる。
1998年にフランス共和国より国家功労賞オフィシエ、2010年には再びフランスよりレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエを贈られる。
著書に『京都の企業はなぜ独創的で業績がいいのか』(講談社)がある。

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