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齋藤孝・思考力を高める ~まず、レビューを書こう!

齋藤孝(明治大学文学部教授)

2014年07月29日 公開 2022年12月21日 更新

 

自分の中の「濃い部分」をピックアップする

 レビューの最大のポイントは、感想文ではないということだ。

 「この曲が好き」といった個人的な好みだけを語られても、読み手には意味がない。あるいは、単に世の中で流行っているという理由だけで取り上げたとしても、おもしろいレビューにはならないだろう。皆が右へ行けば右に行き、左に行けば左に行くという“ミーハー”な姿は、「自分の考え」がないことの裏返しにすぎない。

 重要なのは、対象にどういうこだわりを持ち、どういう目線で語るかだ。その独特の“粘着力”や“偏愛”が、人を惹きつけるのである。いわば「一家言ある」ということをアピールするわけだ。

 とはいえ、強烈なマニアである必要もない。とりあえずは、自分の中で比較的濃い部分をピックアップしてみることだ。

 書き方のコツとしては、まず対象について、きちんと把握・要約することだ。全体の分量を10とすると、そのうちの6~8程度が要約でも、レビューとして成り立つ。「自分の考え」は2程度でも十分なのである。

 むしろ問題なのは、100%自分のコメントで埋め尽くそうとすることだ。これでは疲れるし、読み手の興味も引かない。あくまでも何らかの対象があり、それについて意見や見方を述べるからレビューになるのである。

 それはいわば、自分をブラックボックスに見立てるような作業といえるだろう。映画であれ、本であれ、音楽であれ、何かをインプットするから、何かが変換されて出てくる。それが「自分の考え」だ。何もインプットしなければ何も出ないし、そんな箱だけを人に見せても、おもしろがられるはずがない。

 そこで、まずは他の人のレビューを参考にしてみていただきたい。例えばネット通販のアマゾンのサイトを見ると、商品に対するレビューのみならず、そのレビューそのものも評価の対象になっている。「このレビューは参考になりましたか?」とあって、「はい」か「いいえ」をクリックできる。そして「カスタマーレビュー」の欄を見ると、「はい」の多いレビューから順番に掲載される仕組みだ。

 自分の知っている映画や本やCDについて、他の人はどういうレビューを書いているだろうか。「はい」を集めているものや、読んで「うまい」と思えるものをピックアップしてみると、だいたいの勘どころはつかめるはずだ。

 では、どういうレビューが評価されているかといえば、本の場合、内容が的確に要約されているものが多い。読み手にとってはどういう本なのかがわかるわけで、たしかに公共的な価値は高い。

 

一部分についてだけ評論する「限定レビュー」でもいい

 レビューに盛り込むべき情報としては、大きく2つある。

 1つは対象そのものについて紹介すること、もう1つは対象の周辺情報を提示することだ。中身を要約したり、同じアーティストの別の作品について触れたり、他のアーティストの似た作品と比較したり、といった具合だ。こういう情報が加わると、対象をより立体的に評価できるのである。

 ただし、いずれにしてもあまり長く書いてはいけない。要約なら、せいぜい100~200字でまとめたほうがいいだろう。それも、あらすじでは平板になっておもしろみがない。自分が考えるクライマックスの部分をピックアップして紹介するからこそ、レビューに意味が生まれるのである。

 例えば、「この本は○章を読むだけでも価値がある」と提示し、その理由や中身を簡単に紹介する。実はこのほうが、書き手としてもこだわりがある分、ずっと書きやすいはずだ。焦点を絞ることで、そこに熱が生まれるのである。

 そもそもレビューの基本は「リスペクト」にある。その対象への「愛」があるからこそ、それを言葉で表したい、人に伝えたいという気持ちで書くものだ。とはいえ、作品のすべてを深くリスペクトできるかといえば、微妙なことも多いだろう。

 だから、リスペクトできる部分だけをピックアップして書く。小説なら「この登場人物だけ魅力的だった」とか、映画なら「衣装がすばらしい」とか、CDなら「ギターソロだけ突出していた」等々でもいい。それによって熱いレビューが書けるわけだ。

 あるいはどうしても批判したい場合も、やはり「この部分に関していえば」とか、「この作品だけ合わなかった」などと限定したほうがいい。むしろそうしたほうが、自由闊達に批判できるのではないだろうか。

 実はこれは、古代ギリシャのソクラテスやプラトンの時代からの知恵だ。「自分はこういう立場で、これに限定して話をしている」と述べることで、対話や議論を成り立たせたのである。そうすると、お互いに話を噛み合わせることができるため、ある種のスポーツのようなスタイルになり得たのである。

 対照的なのが、ネット上でしばしば見かける全否定や人格批判だ。「プロの資格なし」とか「まったく時間のムダ」とか「引退しろ」といった言い回しは、さながら「お前の母ちゃんデベソ」と同じレベルであり、文字どおり話にならない。古代ギリシャの知恵から見れば、明らかな反則である。

 リスペクトすべき点がないと、それは文章に如実に表れる。おざなりになるか、批判だけになるか、いずれにせよ読み手にとっておもしろいものにはならない。そういう対象の場合には、最初から書かないと決めたほうがいいだろう。

 言い換えるなら、これは語る範囲を限定するということでもある。前述のとおり自分の立場を明らかにするのも限定の一種だが、対象とする作品の一部分だけ取り上げたり、ある特定の視点から評したりするのも限定だ。すると「限定×限定」という形になるため、よりオリジナリティが増す。これもいいレビューの条件といえるだろう。

 

<書籍紹介>

5日間で「自分の考え」をつくる本

齋藤孝 著

「君はどう思う?」に、一瞬で答える力。ニュースの話題から本の感想まで、どんな話題でも「自分の考え」を言える人になる技を公開!

 

<著者紹介>

齋藤 孝

(さいとう・たかし)

明治大学文学部教授

1960年、静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士課程等を経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。
著書に『声に出して読みたい日本語』(草思社文庫、毎日出版文化賞特別賞受賞)、『身体感覚を取り戻す』(NHKブックス、新潮学芸賞受賞)、『「できる人」はどこがちがうのか』(ちくま新書)、『読書力』(岩波新書)、『齋藤孝の「ガツンと一発」文庫 全6巻』『1分で大切な仕事を片づける技術』『使える!ギリシャ神話』(以上、PHP研究所)『すぐに使える! 頭がいい人の話し方』『使える!「徒然草」』『1分で大切なことを伝える技術』『凡人が一流になるルール』『必ず覚える! 1分間アウトプット勉強法』(以上、PHP新書)、『上昇力!』(PHPビジネス新書)、『こんなに面白かった! 「ニッポンの伝統芸能」』(PHP文庫)など多数。

 

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