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出口治明・スキルとしての教養~世界史を知る醍醐味とは?

出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)

2014年08月06日 公開 2022年12月08日 更新

 

スポーツや音楽の歴史から入るのもあり

歴史を学ぶことには、より即効性のある効果もあります。以前、ウズベキスタンに行った際のことです。国章に描かれている鳥を見て、私が「これはスィーモルグですか?」と聞くと、「なぜ知っているのか」と相手は非常に喜んでくれたのです。

実はペルシアにはスィーモルグという巨大な鳥の伝説があり、『アラビアン・ナイト』の怪鳥ロックのモデルとも言われますが、それが中央アジアに広く伝わっていることをたまたま知っていたのです。たったそれだけのことで、一気に相手と打ち解けることができました。

とくにその国の発祥に関することや、誇りに思っていることを知っておくといいでしょう。我々も外国人から「私は『源氏物語』が大好きです」と言われたら、嬉しいですよね。

どんな人でも、自分が生まれた場所を愛しており、その歴史や文化を理解しようとしてくれる人には好感を抱くもの。ビジネスの場がグローバルに広がれば広がるほど、世界史を知ることが重要になるのです。

では、これから世界史を学ぼうという人は、何から学んだらいいのか。いきなり全体を学ぼうとすると、あまりに範囲が広すぎて途方に暮れるかもしれません。私は、自分が興味のあることから勉強すればよいと思っています。

興味のある時代や人物でもいいですが、たとえば自分がスポーツ好きならサッカーの歴史、音楽好きならピアノの歴史から入ってもいいでしょう。たとえば最近読んだ『日本のピアノ100年』(草思社)という本は、音楽史だけでなく、近代日本の産業史を知る上でも興味深い本でした。

このように1つ学ぶと、さらにその歴史を遡ってみたくなるものです。そうして徐々に世界史の全体像が見えてくると、個々の歴史もさらに深く理解できます。やはり森全体を見たほうが、木もはっきりと見えてくるからです。

「自分が生まれる前のことについて無知でいることは、ずっと子供のままでいること」というキケロの名言があります。歴史の大きな流れを知り、人間が数えきれないほどの失敗を繰り返してきたことを知れば、仕事でうまくいかないことがあっても、「誰もが同じ経験をしてきたのだから」と思えて元気になれます。

同時に、多少の成功を収めても舞い上がることがないよう、自分を戒めることもできます。そうしたたくましさを身につけるためにも、世界史はきっと役に立つはずです。

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