1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 世界のエグゼクティブが意識している「5つのコミュニケーション」

仕事

世界のエグゼクティブが意識している「5つのコミュニケーション」

橘・フクシマ・咲江(G&S Global Advisors Inc.社長)

2014年09月01日 公開 2024年12月16日 更新

世界のエグゼクティブが意識している「5つのコミュニケーション」

世界最大手の人財コンサルティング会社・コーン・フェリーで活躍した橘氏も、かつては英語を必死に勉強して身につけ、なんとか仕事をしてきた経験があった。日本人らしい「あうんの呼吸」は、海外では通用しない。人は「自分のことをわかってくれないこと」を前提に考えなければならないことに気づかされ、伝え方を模索してきた。

世界のエグゼクティブたちは、普通の人といったい何が違うのか。同氏によるとグローバルに活躍する人たちの話し方には「5つの共通点」があるという。

※本稿は、橘・フクシマ・咲江著『世界のリーダーに学んだ 自分の考えの正しい伝え方』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。

 

「心の国境」を取り払うことから始まる

コミュニケーションに関する私の第一のキー・メッセージは、「人をカテゴライズ(分類)して見ない」ことである。国籍、人種、性別、年齢、出身校、職歴、組織内のポジションといった属性で人をカテゴライズ(分類)し、「あの人は○○だから」と決めつけるのは、まったく無意味なことだ。

たとえば、稲盛和夫氏が日航の立て直しに乗り出した時、「80歳を過ぎて……」と年齢的なバイアスをかけていた人が多かったが、その“決めつけ”が間違っていたことは、結果を見れば明らかだ。

「女性だから気配りがある」「男性だから決断力に富む」「○○大学出身だから仕事ができるだろう」「最近の若い者は……」「だから年寄りは……」などは“決めつけ”の典型であり、相手を理解する幅を自ら狭めているようなものである。

私がソニーの社外取締役だった時、一緒に仕事をしたハワード・ストリンガー氏というCEOがいた。彼はウェールズ出身のイギリス人で、アメリカに移って長年、放送局などのメディアで経営者としてエンターテインメント業界の仕事に携わっていた。

そして、ソニーの出井伸之元会長と出会って説得され、給料を前職より落として入社。アメリカのトップを務めたあと、グローバル社のCEOとなった。

当たり前のことだが、こうしたキャリアの1つひとつが、ハワードという人物を形成している要素である。「イギリス人」や「エンターテインメントのエグゼクティブ」は、彼の数ある個性のうちの一部に過ぎず、その一面だけで彼を括れるわけではない。

多様な文化のせめぎ合いの中で長年、人と企業に関わってきた私が辿り着いたのは、「その人は、その人でしかない」というシンプルな結論だった。もちろん、ある国の集団としての国民性はある。

特に宗教的背景は、その国の人の基本的個性の重要な部分を形成する。しかし、その国民性が8割を占めている人と、2割しか占めていない人がいる。それを初めからすべて8割と決めつけることは障壁となる。

1人の人間としてコミュニケーションをとれば、グローバル化のハードルは意外と簡単に越えられる。「あの人は○○だから」と構える必要がないので、自分自身も楽になれる。

逆に言えば、「あの人は○○の割には……」という発見がたくさんできれば、カテゴライズの呪縛から解き放たれる。最初にステレオタイプの期待をしていたものが、徐々に良い意味で裏切られることによって、相手の個性が見えてきた証拠と言えるからだ。

自分にはどんなバイアスがかかりやすいのかを知っておき、人に接する時には、自分の判断が本当に正しいのかどうか、一歩引いて見るようにすることも大切である。

 

コミュニケーションの原点は「外柔内剛」

もう1つの重要なメッセージは、「外柔内剛」である。「外柔内剛」は、ここ数年言い続けている私のスローガンかつ努力目標であり、本書の中にもたびたび登場する。

これは、内には絶対に譲れない自分の価値観を守っていく一方で、外に対しては、相手の個性や価値観、国情などに柔軟に対応することを指す。

「外柔」とは、多様性への対応力だ。一対一の関係を重視し、Aさんの「ドイツ人」という個性に訴えてみようとか、Bさんの「女性」という個性に共感を求めてみようというように、多様性をその人の個性の一部として見る癖をつけると、相手に対する理解が進み、対応できることが多くなる。

一方、「内剛」とは、自分のアイデンティティーや信念を曲げないたくましさ、したたかさである。「アイデンティティー」は独自性、固有性、主体性など日本語に訳しにくい言葉だが、どの国へ行っても変わらない「人間としての核」のことであり、「心の国境」を越えるために必須のものだ。

その良い例が、日産のカルロス・ゴーン氏である。両親はレバノン系ブラジル人とフランス人、国籍はレバノン、ブラジル、フランスの多重国籍。フランスで教育を受け、日本企業の社長を務めるといった経歴の1つひとつが核となり、アイデンティティーとなっている。

そして、日本では外国人の「強面」の顔と、日本向きの「優しい顔」の両方を柔軟に使い分けて成果を上げてきた。

ゴーン氏が登場した当初、日本社会には国籍に対するバイアスが少なからずあったが、当時会長だった塙義一氏が全面的にバックアップしたという。「ゴーン革命」が完成していなければ、日産は倒産していただろう。

日本が世界に誇れる「内剛」は、品質の高さ、安全・安心、良質なサービスで、アジア諸国が台頭した今も、まだこれらの分野では日本が競争優位を堅持できている。

日本の謙譲の美徳、「おもてなし」に代表される相手に対する思いやり、勤勉さや忍耐強さ、繊細さなども、まさに「内剛」として維持したい素晴らしい価値観だ。ただし、これらはうまく使わないと、グローバルな舞台では、まったくその反対が求められるケースもある。

 

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×