個人と組織は切っても切れない関係にあり、個人が楽しく働ける「良き状態」にあることで、組織が社会的価値を提供することが可能になり、組織が利益を生むことが、個人の幸せに影響する。
「なぜ、組織マネジメントを学ぶ必要があるのか」から説き起こし、「組織のあり方」「部下を持つことの意味」「マネジャーの仕事の本質」「組織の動かし方」、そして、組織論における新しい潮流までを解説する。
※本稿は、グロービス著,佐藤剛執筆『[実況]組織マネジメント教室』(PHP研究所)より一部抜粋・編集したものです。
マネジャーとは、人に仕事をさせる人
組織で働き、順調にキャリアを積んでいくと、その先にあるのがマネジャーというポジションです。マネジャーという言葉は、ビジネスの現場においては一般的に使われていますが、具体的にはどのような意味を持っているのでしょうか。
営業や開発、生産管理といった特定の職務、職能に長けている人材が、そのままマネジャー、いわゆる管理職になるのがよいという考え方があります。実際そういう制度を取っている企業は少なくありません。たとえば営業部であれば、優秀な営業成績を上げた社員が出世してマネジャーになるという考え方です。
しかしそういう判断基準でマネジャーになった人が、マネジャーの仕事を首尾よく全うできるとは限りません。それはなぜでしょうか?
マネジャーとは、自分が仕事をする人ではなく人に仕事をさせる人です。人を介して仕事をする人と言ってもよく、それまでの現場での仕事とは、求められる能力がまったく違います。営業部長は営業する人ではなく、部下に営業をさせる人なのです。
このように、同じ職務内で直接職務を遂行する役割とそれをサポートする役割に分けるやり方を、垂直的分業と呼びます。
そうしたマインドセットができている人は優秀なマネジャーになりますが、そうでない場合は、たとえば、優秀な営業マンは優秀な営業部長になれるものとはかぎりません。
とくに日本企業ではそうしたケースが多いように思います。社員本人もそうですし、人事部もマネジャーとしての適性を十分に判断しないまま昇進させています。
その理由のひとつは、組織がフラット化し人が減っているなかで仕事を回すためには、マネジャーも自ら現場に出ないといけないことがあります。いわゆるプレイングマネジャーにならざるを得ないのです。そうなると当然マネジャー本来の仕事に十分に時間がさけなくなります。
たとえプレイングマネジャーであっても、マネジャーであることを忘れてはいけません。マネジャー自ら現場に出るにしても、あくまでも本来の業務はマネジメントであり、自分が現場の第一線に立ち続ける必要はないのです。
営業部長でプレイングマネジャーをやっている人であれば、営業部全体の方針があって、それぞれの部下の進捗管理や成果に対しての進捗管理をするのが仕事です。
しかしプレイングマネジャーになると、同時に自分自身も一定の営業予算を持っています。「これだけ稼げよ」と、ひとりの実務担当者として営業することが求められます。
プレイングマネジャーは、自分の時間のうち、マネジャーの仕事に7割、実務担当者としての担当者の仕事に3割といったように配分する必要があります。ところが日本企業では予算達成が優先され、マネジャーとしての仕事の割合が軽視される傾向があるように思います。
マネジメントスキルの必要性
優秀なマネジャーとなるには、きちんとしたマネジメントスキルを身につけることが求められます。
しかし日本企業では、「自分についてこい」型のマネジャーが少なくありません。それは前述のようにプレイングマネジャーであることが一因かもしれません。
それよりも根深い理由としては、マネジャースキルが身についていないことも推測されます。正しくマネジメントして部下に仕事をさせる方法を知らないため、「俺の背中を見ろ」で済ませてしまっている、そんな事情もあるのではないでしょうか。
マネジメントの手法として、自身をロ-ルモデルに見立てるというやり方ももちろんありますが、それだけでは不十分ですし、そもそも同じやり方が通用しない部下もいます。部下の個性は十人十色なので、それぞれの個別要因に合わせるには、相応のスキルが必要となります。
元来、人は画一的ではありません。叱って動く人もいれば動かない人もいます。ひとつのやり方しかできなくても、何人かの部下は付いてくるかもしれませんが、そこまでです。
とはいえ、100人いたら100通りのやり方が必要なのではなく、いくつかの典型例を知っていれば十分に対応できます。優秀なマネジャーはそれがわかっていて、「今の状況であればこっちを放っておいて、こっちに注力したほうがいい」などと判断できます。
いずれにしろ、マネジャーとして求められるスキルは、自覚的に学び身につけるしかありません。
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