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テルモ元会長「使命感が働く喜びを生む」

2014年09月17日 公開

和地孝(テルモ元会長・人づくり経営研究会代表)

和地孝(テルモ元会長・人づくり経営研究会代表)
写真撮影:今井秀幸

医療機器・医薬品の製造・販売を手がけるテルモを、優良企業に育て上げたことで知られる和地孝氏。同氏の「人は、コストでなく資産である」という哲学にもとづき、粘り強く社員の意識改革に力を入れ、働く意欲を高めたことが、同社の飛躍につながったと言われる。

社長就任時に社員数4000名を超える規模の会社でありながら、どうやって社員の意識改革を成し遂げたのか、和地氏自身が日本企業のあるべき姿を論じつつ、その方法や問題意識を語る。(聞き手:本誌編集部・川上恒雄/構成:加賀谷貢樹)

 

社員の心に火をつけるのはトップの姿勢次第

――かねてから、人を大切にする経営の重要性を主張しておられますね。

松下幸之助さんの言葉に、「松下電器は人をつくるところでございます。併せて電気器具もつくっております」というのがありますが、実に言い得て妙だと思います。私も経営者として、「人は、コストでなく資産である」と訴えてきました。

ところが最近は、「ヒト、モノ、カネ」と言うべきところ、「カネ、モノ、ヒト」になってしまっている。おカネが主役でいいのでしょうか。人をつくらずによい製品はつくれないというのが、私の信念です。

――テルモの経営を担われた際、その信念を実践されたと聞いています。

富士銀行(当時)の取締役を務めていた1989年、テルモに役員として派遣されることになりました。着任して驚いたのは、テルモは3期連続の赤字に陥っているのに、社員に全然危機感がないことです。「これは大変だ」と思いました。

当時の経営者は20年以上にもわたって社長を務めているワンマンで、気に入らない幹部はどんどん切り捨てるような経営者でした。その結果、上の方針に従うこと以外は何も考えない指示待ち社員ばかりの会社になっていたのです。

ところが1993年にその社長が急逝し、私が経営を事実上、担うことになりました(社長就任は2年後の1995年)。すると友人・知人たちから、「まず人を減らし、借金を減らし、バランスシートをきれいにするのが再建の早道」と言われました。

しかし私は、「ほんとうにそれでいいのか」と疑問に思いました。危機感が薄いとはいえ、医療を通じて社会に貢献したいという気持ちのある社員が数多くいたからです。そこで社長就任の際、「社員はコストではなく資産だ。みんなのクビに手をかけることはいっさいしない」と宣言しました。

 

社員4200人と直接対話

――その結果、社員の信頼を得ることができたのですか。

そう簡単ではありません。残念なことに、社員は「どうせ社長の口だけの話」ととらえているようでした。それなら、直接会って私の思いを訴えるしかありません。

当時テルモには、国内だけでも約4200人の社員がいましたが、私は全国を回り、全社員との対話を敢行しました。営業部門は基本的に支店ごとに、製造部門は工場ごとに、社員を集めて話をしたのです。

回ったのは、支店や工場ばかりではありません。たとえば、ある工場から1キロメートルほど離れた、排水をチェックしている場所にも足を運びました。そこでは、コイなどの魚を飼って、浄化した排水を一般河川に放流する前に水質の最終チェックをしていました。

担当者が1人いるだけで、工場長も来ることのない場所です。その担当者に「きみ、どうだ」と声をかけると、彼は「最近のテルモは変わりましたね。こんなところに社長が顔を出すなんて、考えもしませんでした」と述べ、本音を語ってくれました。

当時は交通が不便な四国の山中の駐在事務所なども訪ねたことがあります。「社長は『全社を回る』と言っていたが、まさかここには来ないだろう」とだれもが思っている場所に行くと、そこでがんばっている人たちが、日ごろ思っていることを話してくれる。

酒を酌み交わしながら話し合ったこともありました。こうして当時は社長室にいることがほとんどなく、日本のあちこちで社員との対話を行なっていました。

ただ、「口だけの社長ではない」ことを社員に理解してもらうには、対話だけでは不十分です。社員の発言の中で、「これはいい」と思ったことを、帰社してすぐに経営会議で取り上げることにしました。

逆に、ムリなことは、「こういう理由でできない」と、その場ではっきり伝えることにしました。こうしていくうちに、社員は自由にものが言えるようになり、社の雰囲気がガラリと変わったのです。

 

社員の心に火をつけるには

――「社員の言うことを聞きすぎだ」という批判は出なかったのですか。

「これでは社員に甘い会社になるのではないか」と指摘する人もいましたが、「人に優しく、仕事に厳しく」が私の方針で、社員に甘えを許したわけではありません。

たとえば、1996年に企業理念とともに発表した「5つのステートメント」や2007年刊行の小冊子「テルモのこころ」の中で、社員を「アソシエイト」と位置づけました。

指示されたことをたんに遂行するのが「従業員」であるのに対し、1人ひとりが主体性を持ち、みずから考え行動するのが「アソシエイト」。「きみたちのことを“従業員”とは呼ばない。主役になり、自立してほしい」と私は明言しました。

甘えを許さないからこそ、360度評価(上司だけでなく、同僚や部下らにもよる多面評価)の結果が3期間連続して悪かった人は、降格させました。1年で20~30人は降格したと思います。

ただし、相撲にたとえれば、幕下に落ちたあと、もう一度がんばって大関に返り咲いた人も数多くいる、明るくオープンな制度にしました。

 

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