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復興資金の調達はリレー方式で

飯田泰之(駒澤大学准教授)

2011年04月25日 公開 2022年08月18日 更新

復興資金の調達はリレー方式で

必要な資金の総額は40兆円?

 本稿執筆時点では罹災地域での人的被害さえもが不確定な状態であり、経済的被害を確定することはきわめて困難である。ただし、被害額が不明であることは復興のための準備を躊躇する理由にはならない。復興のための財政的支援が不足なく、迅速に行なわれることを一刻も早く発表・周知することはマーケットの混乱を沈静化するだけでなく、将来の経済生活に不安を感じつづける被災者の方々にとっても、数少ない安心材料を提供することになる。

 現時点での直接被害(インフラ・家屋等の損失)は公的には阪神淡路大震災(9.6兆円)を超えるとの予想が示されるのみであるが、内閣、民間シンクタンク等の予想では15兆円から25兆円のあいだとの見通しが強い。これにその後の生活保障や生産停滞への補償等では、罹災地域が広範にわたることや原子力発電所への被害から、東海大地震被害想定(11兆円、中央防災会議試算)と同等かそれ以上の被害になると考えられる。

 ここから、今次震災に必要な復興財政資金の総額は現時点では30兆円から40兆円のあいだになると予想される。したがって、震災発生直後の2011年度には少なく見積もって10兆円以上、その後の4年にわたって5兆円ほどの追加的財源が要される。

 慢性的な財政悪化のなかで、年間の国税収入に匹敵する財源をいかに確保するか。自民党の谷垣総裁は震災直後の3月13日に菅首相との会談のなかで時限的な増税を示唆し、櫻井財務副大臣も17日の記者会見で一時的な増税に積極的な姿勢を示している。今次の震災を奇貨として財政再建のための増税を推進すべきだとの声は強い。

 しかしながら、一時的な増税を財源とすることは財務の原則に反する。避けることができない偶発的なショックは、できるかぎり広く全国的に、薄く時間をかけて吸収する必要がある。仮に本年から数年間の臨時増税による資金調達を行なった場合、空間的な負担の分散にはなっても、時間的な意味での負担の分散にはならない。したがって復興資金は公債によって調達される必要がある。

 ただし、大規模な公債による資金調達については二つの懸念がある。第一の懸念が、どのように返すのかという償還の問題、第二が、すでに大量の公債が発行されているなかでの消化の問題である。

過大な増税ショックを与えるな

 そこで本稿で提案したいのが、二つの懸念に対する短期・中期・長期のリレー方式での対応だ。

 短期的な消化の困難を緩和するために、当初の10兆円から15兆円の公債は日銀引き受けにより行なう。公債の日銀引き受けは法律で禁止されていると考えている人が多いが、財政法5条では国会の決議を得れば実施できるとされており、これまでも借り換えのためには適用されてきた。新発債への適用は日銀引き受けによる歳出拡大に歯止めが利かなくなることから疑問視されてきたが、「震災被害推計額の半分」といった限定を付ければ、それが恒常化する懸念は薄い。引き受けによる財政支出がもたらす副作用は、教科書的には、インフレと円安圧力であるが、これは現時点では問題ではないだろう。インフレと円安による景気の下支えは、被災地域以外の日本経済が復興を支えるためにも必要である。

 しかし経済の回復だけで、今次の復興に必要な財源の充足、さらには恒常的に劣悪な財政事情が解決されるわけではない。そこで来年度以降に要されるのが、景気にマイナスではない増税としての相続税である。本誌4月号での鈴木亘・学習院大学教授の論説にもあるとおり、相続税は民需にとってプラスの影響を与える数少ない増税である。現在、日本の相続財産は毎年80兆円程度であるが、控除枠があまりに大きいことから税収は1兆円程度にすぎない。控除枠を縮小してフランス・ドイツ並みのカバー率とし、配偶者以外に20%程度の納税をお願いすることで10兆円弱の税収が期待できる。さらに相続税は、現時点ですでに引退している世代にも今次の震災のショックを負担いただけるという点で、時点を通じた負担分散という目的にも適合している。

 短期的には日銀引き受け、中期的には相続税といった「露払い」を経て、ようやく財政再建の本丸である消費税・所得税・社会保障の一体改革に進むことができるのではないだろうか。筆者は、増大する社会保障費の負担に応えるための増税は不可避であると考えている。しかしながら、これはいま行なうべきことではないのではないか。現時点で日本経済は、累積した財政赤字と長期経済停滞、さらには震災によるショックという三重苦を抱えている。目先の財源不足に驚いて、これに増税という過大なショックを加えることは得策ではない。

 倦まず弛まず、震災への対応と経済の回復、そして財政再建へと歩みを進めていかねばならない。

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