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個性豊かな「旅の文章の書き方」

轡田隆史(ジャーナリスト)

2015年01月13日 公開 2023年01月30日 更新

「東海道」

<古代からある街道の名前で、特に鎌倉時代に京都と鎌倉を結ぶ街道として急速に発達した。江戸時代は五街道の1つとして、京都と江戸を結び53の駅(宿場)を設け、「東海道五十三次」と呼んだ。>

 ですから、東海道新幹線の旅は、歴史を高速でたどる旅なのです。「天下分け目の関ヶ原」も通過します。

 慶長5(1600)年9月15日、徳川家康の東軍と石田三成を中心とした西軍が天下を争った。東軍が勝利して家康の政権が確立した。

 大垣と米原の中間あたり、伊吹山を望む、その「関ヶ原」を通過するあたりで想像力を働かせれば、戦いの叫びが聞こえてくるかもしれません。

 いや、聞かなければならないのです。だって、あなたは「旅行家」であり、旅から戻ったら紀行文を書くのですから!

 そして京都を歩くとなれば、もうそこは歴史そのものなのです。あなたは、その歴史に登場する一人物と化さなければならないのですよ。脚本も演出も主演もあなたなのですからね!

 ですから、京都のくだりを、たとえばこんな調子で書いたら、どうなるでしょうか。

  *

 古都の超近代的な駅についてから、一同、ホテルにむかってチェックインした。私の部屋からは東山の山並みが見えていた。さあ京都の旅だ、と胸が高鳴った。 

  *

 もちろん、こう書くのも楽しみ方の1つですから、いけない、なんていいません。

 しかし、これだと皆さん、似たような文章になってしまうかもしれません。旅のすべてを総花式に書こうと思えば、こうなってしまいます。

 そこで「的を絞る」のです。つい先ほど、新幹線の窓から眺めた富士山について書いた例文を掲げましたが、あれを、あのような調子で引き継いでみたらいかがでしょう。総花式にみんな書こう、なんて考えずに。

 京都駅のこともホテルのことも、やめましょう。いつ行ったって、それは同じことですから。

  *

 富士山を眺めながら、「万葉集の旅」を想ったように、2日間の京の旅で、さまざまな歴史を想像してみようと努めてみた。

 五条大橋を渡ったときは、牛若丸と弁慶の争いを想ってみた。

 子どものころ、京の五条の橋の上、なんていう歌いだしだったかな、唱歌があった。

 腕自慢の僧兵の弁慶が長い薙刀を手に、夜な夜な橋の上で武士を待ち伏せして闘いをいどみ、勝っては刀を奪っていた。

 もう1本で千本だ! という夜に出現したのは、鞍馬山で天狗を相手に修行した牛若丸すなわち、後の源義経。

 歌の文句はたしか、前やうしろの右左、ここと思えばまたあちら、燕のような牛若の早業に、鬼の弁慶あやまった。弁慶は降参して部下になった。

 まあいま思えば、愉快な伝説だけれど、私は友人の、名字に「飛」という文字の入る女性を連想するのだ。

 彼女は仕事で、まさに、右と思えばまた左の活躍で、あだ名を「ウシワカ」という。この旅には参加できなかったのは残念。

 橋の上から、ふと「ウシワカ」のことを想いながら清流を眺めている。この盆地の底には巨大な湖水が広がっている、という話を聞いたことがある。

 こちらは伝説ではなくて、その水があちこちで湧いているから、都会の真ん中の川なのに、こんなにもきれいなのだ。

 さあ、今夜は、この清流で採れた川魚をいただくのだ!

  *

 「牛若伝説」に的を絞りながら、あれこれ連想してゆくやり方です。

 「連想」を重ねてゆくのも、文章を書くための重要な方法です。連想するには、さまざまな経験を思い出さなければなりません。

 「書く」という行為は、このように「思い出す」行為なのです。

 思い出すことによって、同じことを、また体験する。記憶も更新してゆくのです。

 何を書くかをきめる、ということは、何を書きたいのか、をはっきりさせることでもあります。

 団体のパック旅行で京都に旅してきたことを書きたいのです、では、的を絞ったことにはならない。

 その旅で、何にいちばん感動したか?
 何が、いちばん面白かったのか?
 何が、いちばん美味しかったのか?

 といったような点を、重点的に思いおこしてみる。見物したもの、場所を、あれも、これも列挙しただけでは、感動が読む人に伝わらない。

 参加できなかった人に「旅はどうだったんですか?」と質問されたときに、「とても楽しかったですよ」と答えただけでは、きちんと答えたことにはならないでしょう。

 どこが、どう楽しかったのか、を具体的に説明してあげなくては、誠実に答えたことになりません。文章も同じです。

著者紹介

轡田隆史(くつわだ・たかふみ)

ジャーナリスト

1936年生まれ。東京出身。埼玉県立浦和高等学校、早稲田大学政治経済学部卒業後、59年、朝日新聞社に入社。社会部デスクや海外特派貝を経て、88年、論説委員に。99年に退社後、著作活助や講演活動に入り、テレビ朝日系「ニュースステーション」「スーパーJチャンネル」のコメンテーターも務めた。
中・高・大とサッカー歴は長く、浦和高校では、高校選手権、国民体育大会の二冠を経験。著書に、『小論文に強くなる』(岩波ジュニア新書)、『「考える力」をつける本』『それでも「老人力」』(ともに三笠書房)、『旅のヒント』(新書館)ほか多数。

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