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辞書編纂者・飯間浩明の「日本語を使いこなす技術」

2015年05月14日 公開

飯間浩明(日本語学者、国語辞典編纂者)

辞書編集者が解説する「日本語の正しい使い方」

 

物も言いようで角が立つ…いい面を見れば肯定的な表現が見つかる

衣料品のメーカーは、お客さんのことを「太った方」とは決して言いません。あるメーカーでは、「ふくよかな方」「小柄でふくよかな方」というように「ふくよか」を用いるのだそうです。

なかなかうまい言い回しです。これなら「太った」ほど悪いニュアンスは感じられません。「サイズが大きい」のように直接的な言い方でもありません。

また、かつらや植毛の会社では、頭髪が薄くなることを「禿げ」とは言いません。どの会社でも「薄毛」と称しています。前者は頭髪のなくなった部分に重点を置いた表現、後者は残った部分を中心にした表現です。後者のほうが感じがいいのは当然です。

このように、同じことを言うにも、表現のしかたによって、ニュアンスがよくも悪くもなります。これを、ことわざでは「丸い卵も切りようで四角、物も言いようで角が立つ」と言います。

社交術や子育ての本などでも、このことは強調されています。人を評価するときには、否定的な表現よりも肯定的な表現を使ったほうが効果的だ、というのです。

たとえば、「優柔不断な人」と言えば否定的ですが、「慎重な人」と言えば肯定的です。「泣き虫」と言えば否定的ですが、「涙もろい」と言えば肯定的です。「なれなれしい」はけなした言い方ですが、「誰にでも気さくに接する」ならばほめています。

こういった表現を箇条書きふうに並べてある本もありますが、肯定的な表現は、本で読んで暗記するものではありません。

相手のいい面を見るように心がければ、肯定的な表現はおのずと浮かんできます。

 

うわべだけだと皮肉になる

内心ではよく思っていないのに、うわべだけいい表現を使おうとする人もいます。この場合は「皮肉」になってしまいます。

1990年代半ば、当時の東京都知事は、都心部のホームレスを排除しようと強硬姿勢を取っていました。記者に対して次のようにコメントしました。

「(ホームレスたちは)独特の人生観と哲学をお持ちだ。職を紹介しよう、仮の住まいを提供しよう(略)といっても放っておいてくれという」(「朝日新聞」95年10月21日付)

一瞬、ほめているのかと思いますが、これは皮肉です。「独特の人生観と哲学」の真意は、「自分勝手な考え」ということでしょう。

ホームレスになる理由はさまざまでしょうが、「人生観と哲学」に基づいて自由を求めたという人は少ないはずです。この言い方には悪意が感じられて、自治体の長の発言としてふさわしくないと思ったことを覚えています。

否定的な表現を避けたいからといって、何でも肯定的な表現をすればいいというものではありません。いつも時間に遅れてくる人に、「あなたは時間にだらしない」と言う代わり、「時間に縛られず、大らかな性格だ」と言っても、皮肉になるだけです。

 

動詞の言い​方にすると客観的に

同じ否定的な表現でも、形容詞を使わず、動詞を使うといい場合があります。

「あなたは前回、前々回と時間に遅れました。私も困るので、どうか改めてください」形容詞「だらしない」は主観的な評価を表しますが、動詞「遅れる」は、単に事実を述べているだけです。

あるいは、子どもがテストで50点とか60点とか、以前より低い点を取ってきたとき。

「なんて悪い点なの」「できが悪い」などと、形容詞「悪い」を使って叱っては、子どものやる気はなくなります。

ここでも動詞を使った言い方にします。

「この前は70点だったのが、今度は60点に落ちた0 0 0 んだね。次は上がるようにしよう」

点数が10点「落ちる」というのも、単に事実を述べているだけで、悪いともいいとも言っていません。

一般に、形容詞を多用すると、感情や評価を含む主観的な表現になりがちです。一方、動詞を使うと、批判も称賛も含まない、客観的な言い方がしやすくなります。

このことは、形容詞「汚い」と動詞「汚れる」を比較するとよく分かります。両方とも意味は似ていますが、やはり異なります。

「この本は汚い」「この本は汚れている」

2つの文を比べると、前者は「いやだな」という否定的な気持ちが入っています。後者は事実をそのまま述べています。動詞中心の言い方は、比較的角が立ちません。

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