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三越伊勢丹社長・大西洋の仕事術―ブランド力は「現場」から

大西洋(三越伊勢丹ホールディングス社長)

2015年06月05日 公開 2022年08月08日 更新

 

三越伊勢丹にとってプラスになることは社長が直接やるべき

 店頭に買い物に来ていただいているお客さまに対しては、できるだけ社長である自分がご挨拶をしなければならないと考えています。

 金額の多寡ではありません。 たとえば、十数万円の靴をお買い上げいただいたお客さまにとって、担当のスタイリストに加えて社長が出てきたとしたら、抱かれる印象は絶対に違うはずです。三越伊勢丹にとってプラスになることは、社長が直接やるべきですし、私もそうしたいと思っています。

 いまでも、何も予定がなければ水曜日と土曜日は店頭に立ちます。

 水曜日は新宿に顔を出します。ちょうどお買場が変わって新しい商品が出るのが水曜日なので、新しいお買場の様子を見るにはいいタイミングです。

 土曜日は新宿のあとに、銀座と日本橋に行くと決めています。やはり休日のお買場を見るのは、百貨店の人間として最低限やるべきことでしょう。ただ最近は、土曜日も別のスケジュールが入ることが多くなったので、毎週行くことができないのが残念なところです。

 支店については、年に2回ほどしか行けません。自宅に近い伊勢丹府中店や伊勢丹立川店は思いついたときにひょっこりと顔を出せますが、ほかのところに行く時間をつくるのが難しくなってきました。

 店頭に行くといっても、ただ見に行くだけではありません。

 私としては自身が店頭に立っていたころ、営業部長や立川店長をやらせてもらったときの管理者のころと同じ目線になって現場を見ます。すると、かなり細かいところに気がついてしまうのです。

 あとから店長に「こういうことがあったけど、おかしいんじやないの?」とメールを送るので、迷惑がられているかもしれません。

 ただ、それでもやり続けるしかないと思っています。なぜなら、お客さまに対して「みっともないこと」が、平然と放置されているからです。

 もちろん、頻繁にそういうことが起こっているわけではありません。でも、たまたま起こっていた場面を目にしたお客さまには、それが常態だと思われてしまいます。そういうことがあってはならない。だからこそ私は口を出すのです。

 つい最近も、新宿本店1階の「ザ・ステージ」というスペースの脇に机が置いてあるのを見つけました。その机というのは、水曜日の朝にそこでレセプションを開いたときに使ったものです。私は海外に出張していて出席していなかったのですが、翌日、帰国して店頭に行くと、1日経っているのにステージ脇に置きっ放しになっているのです。

 あるいは、いまさまざまな種類のカタログ冊子を発行していますが、お買場のあちこちに棚を置いて「ご自由にお取りください」とご提供しています。その棚に、肝心の冊子が置かれていない状態のまま放置されていたのです。

 私はその状態をスマホで写真に撮り、30人くらいのスタイリストやマネージャークラスにLINEで送りました。

 「これ、どう思いますか?」

 こんなことが新宿本店で起こっていること自体が、信じられないのです。こんなことが起こっているかぎり、私としても言わざるをえないのです。

 「こういうお買場でいいんですか?」

 繰り返しますが、こうしたことが毎日起こっているわけではありません。しかし、こういうことが気にならない感覚であることが心配なのです。

 お買場を大切にする姿勢は、これからも意識的に伝えていきたいと思います。たとえ迷惑がられても、たとえ嫌われても……。だからこそ、これからも私は現場を歩き続けていくのです。

《PHP新書『三越伊勢丹 ブランド力の神髄』より》

 

 

著者紹介

大西洋(おおにし・ひろし)

〔株〕三越伊勢丹ホールディングス代表取締役社長、〔株〕三越伊勢丹代表取締役社長

1955年、東京都生まれ。1979年慶応義塾大学商学部卒業後、伊勢丹に入社。紳士服の販売委員からキャリアをスタートし、プロジェクト開発・店舗開発担当となり、この間海外勤務(マレーシア)も経験。2003年には新宿本店のメンズ館リモデル・オープンを成功させる。その後執行役員などを経て、2009年4月、伊勢丹常務執行役員と三越取締役常務執行役員を兼任。。同年6月、社長就任。2012年2月より現職。

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