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部下の何をほめればいいのか――「辞めさせない」マネジメント

石田淳(社団法人行動科学マネジメント研究所所長)

2015年08月21日 公開 2024年12月16日 更新

 

部下をほめるのは苦手?

 「ほめる」ことの重要性については、第4章でもお話ししたとおりです。

 「行動」の結果を、メリットのある好ましいものにコントロールしなければ、人は行動を繰り返しません。

 ですから、部下に望ましい行動を取ってもらいたいときには、リインフォースとして行動を評価=ほめて、結果にメリットを与えるのです。

 「行動の結果」→「上司にほめられた」

 これが最もシンプルなリインフォースです。

 ところが、ほめることの重要性を十分理解していても、どうしても「ほめる」という行為をしない上司もいます。

 「人をほめるのは、苦手。ましてや自分の部下をほめるなんて……」

 彼らはそう言います。

 これには、彼らの育った時代背景も影響しています。

 「ほめるのが苦手」という人の多くは、現在40代以上の人がほとんどでした。それより下の世代は、私が接してきた人を見ても、ほめることにはあまり躊躇はないようです。

 40 代以上の人は「叱られながら」育ってきているのです。

 家では親に叱られ、学校では先生に叱られ、部活では先輩に叱られ、会社に入れば上司から叱られ……そうやって育った世代なのです。

 私も「小学校の頃は、給食を残すと先生からメチャクチャ叱られたなあ〜」なんて思い出話をすると、20 代の人からは「マジですか?」と驚かれる……そんなことがあります。

 行動科学マネジメントが提唱する「日常の行動を評価する」ということなど、彼ら40代以上の人たちにはあまり経験がないのでしょう。

 家庭で、学校で、そして職場で「叱られる」育てられ方をしてきたので、自分が上司になったときには、部下に対しても同じような育て方をしてしまうのです。

 「人のことは、簡単にほめるものではない」「しょっちゅうほめるなんて、何だかウソくさく思われるんじゃないか?」。そんな価値観を持っているのかもしれません。

 

何をほめるか? それは「行動」

 「ほめるのが苦手」という人は、まずその目的を考えるべきです。

 部下をほめる目的は、リインフォース。行動を評価し、結果をメリットのあるものにすることです。

 極端にいえば、部下をほめることはマネジメントスキルのひとつ。部下の人間性や性格をほめることとは、まったく別の話なのです。

 何度も繰り返しますが、行動科学マネジメントが焦点を当てるのは、人の内面ではなく、行動です。部下の行動を認め、ほめる。上司自身や部下の「気持ち」の部分は、マネジメントに関してはひとまず忘れてもいいでしょう。

 「君って、いいやつだよね」

 「俺、お前のこと大好きなんだ!」

 ……残念ながら、それで部下が動くわけではないのです。

 また、「苦手の克服」という観点からすれば、第4章でお話しした「系統的脱感作法」を上司自身が試みるのもいいでしょう。

 もちろん本来は、「部下の望ましい行動をほめる」ということですが、ほめることが苦手な人がいきなり部下をほめるときには、自然さに欠ける場合もあるかもしれず、「ほめられること」に慣れている20代の社員には、見透かされる可能性もあるかもしれません。

 そこで、成果に結びつく行動だけでなく、普段のなにげない行動にも着目し、言葉にしてみるのです。

 書類を書いている部下に「書くのが早いな」、ランチから帰ってきた部下に「早かったな」などと単純に声をかける。

 そうして「ちょっとずつ」、「ほめる」という行為に近づけていくのです。

 ただし、「ほめる」ときは、とにかく「望ましい行動」をほめる、ということをくれぐれも忘れないようにしなければなりません。

 人間性や性格に踏み込むと、逆に若い世代にはうっとうしく思われることもあるのです。

 「ほめる」行為は、あくまでもマネジャーのビジネススキルです。

 

 

著者紹介

石田淳(いしだ・じゅん)

社団法人行動科学マネジメント研究所所長

アメリカのビジネス界で絶大な成果を上げる行動分析、行動心理学を軸にしたマネジメント手法を、日本人向けに改良し、「行動科学マネジメント」のメソッドとして体系化。意志の力に頼らない再現性の高い方法論として、人材育成や組織活性化に悩む企業にとどまらず、教育、スポーツの現場でも幅広く成果を上げている。
社団法人行動科学マネジメント研究所所長。株式会社ウィルPMインターナショナル社長兼CEO。米国行動分析学会会員。日本行動分析学会会員。
著書に、『教える技術』(かんき出版)、『なぜ一流は「その時間」を作り出せるのか』(青春出版社)、『行動科学マネジメント入門』(ダイヤモンド社)などがある。

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