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緊急報告!西日本大震災に備えよ

鎌田浩毅(京都大学教授)

2015年12月26日 公開 2022年11月10日 更新

緊急報告!西日本大震災に備えよ

鎌田浩毅著『西日本大震災に備えよ』より

想定外をなくせ!必ずやって来る巨大地震に向けて準備を

 

南海トラフ巨大地震の災害予測

 現在、国は「想定外をなくせ」という合い言葉のもとに、南海トラフ巨大地震で起こりうる災害を定量的に予測している。中央防災会議が行った被害想定では、東北地方太平洋沖地震を超えるM9.1、また海岸を襲う最大の津波高は34メートルに達する。加えて、南海トラフは海岸に近いので、一番早いところでは2分後に巨大津波が海岸を襲うのだ。

 地震災害としては、九州から関東までの広い範囲に震度6弱以上の大揺れをもたらす。特に、震度7を被る地域は10県にまたがる総計151市区町村に及ぶ。その結果、犠牲者の総数32万人、全壊する建物238万棟、津波によって浸水する面積は約1000平方キロメートル、という途方もない被害が予想されている。

 南海トラフ巨大地震が太平洋ベルト地帯を直撃することは確実だ。被災地域が産業・経済の中心地にあることを考えると、東日本大震災よりも一桁大きい災害になる可能性が高い。

 すなわち、人口の半分近い6000万人が深刻な影響を受ける「西日本大震災」である。

 経済的な被害総額に関しては220兆円を超えると試算されている。たとえば、東日本大震災の被害総額の試算は20兆円ほど、GDPでは3パーセント程度だった。西日本大震災の被害予想がそれらの10倍以上になることは必定なのである。

 

9世紀と酷似する日本列島

 南海トラフ巨大地震の発生が確実視される21世紀は、日本史の中でも特異な時代として記録されるのではないか。というのは、地球科学的には同じように異常だった9世紀の日本と酷似しているからである。

 地球科学では地層に残された巨大津波の痕跡や、地震を記録した古文書から、将来の日本列島で起こりうる災害の規模と時期を推定している。これに従って、9世紀の日本で何が起き、さらに今後何が起きうるのかを考えていこう。

「3.11」は869年に東北地方で起きた貞観地震と酷似している。そして驚くべきことに、1960年以降に日本で起きた地震や火山噴火の発生地域や規模が、9世紀のそれによく似ているのである。具体的に見てみよう。

 9世紀前半の818年に北関東地震が発生した。ここから9世紀の「大地変動の時代」が始まり、827年の京都群発地震、830年の出羽国地震と直下型地震が続いた。

 9世紀は地震だけでなく火山の噴火も頻発していたので見ておこう。832年に伊豆国、837年に陸奥国の鳴子、838年に伊豆国の神津島、839年に出羽国の鳥海山、と各所で立て続けに噴火した記録が残っている。

 その後の地震発生を見ると、841年に信濃国地震と北伊豆地震が相次ぎ、850年には出羽庄内地震、863年には越中・越後地震が起きた。その直後の864年には富士山と阿蘇山が噴火するという事件が起きた。

 さらに、868年に播磨地震と京都群発地震が発生し、871年に出羽国の鳥海山、また874年に薩摩国の開聞岳が噴火した。

 そして東日本大震災に対応される869年の貞観地震の発生である。これが起きた9年後の878年には、相模・武蔵地震と呼ばれる直下型地震(M7.4)が関東南部で起きた。

 さらに、その9年後の887年には、仁和地震と呼ばれる南海トラフ巨大地震が起きた。

 これはM9クラスの地震で、大津波も発生した。そして最後の2つの地震が今後の予測に関してきわめて重要なのである。

 

2020年と2029年という計算

 たとえば、こうした「9年後」と、「さらに9年後」に起きた地震の事例を、21世紀に当てはめてみよう。東日本大震災が起きた2011年の9年後に当たる2020年は、東京オリンピックの年である。

 単純に計算すると、その頃に首都圏に近い関東で直下型地震が起き、さらに9年後の2029年過ぎに南海トラフ巨大地震が起こることになる。もちろん、この年号の通りに地震が起きるわけでは決してないのだが、もしこの周期が合ってしまうととんでもないことになる。

 9世紀に起きた大地震のうちで近年まで起きていないものが、首都直下地震と南海トラフ巨大地震の2つなのだ。しかも、後者の南海トラフ巨大地震は、発生の時期が科学的に予想できるほとんど唯一の地震である。

 我々専門家ができることは、過去のデータから判断して、確実にそれが起きると見做すことと、10年ほどの幅を持たせて時期を予測すること、だけである。しかし、これでも人生や仕事の将来を決める上では、非常に貴重な情報となるのではないか。

「知識は力なり」。知識があるかないかで、将来に対する意識が全く違ってくる。「3.11」以降の日本列島は千年ぶりの大変動期に突入した、といっても過言ではないことを、しっかりと認識すべきなのである。

 我々は東日本大震災の教訓として、「想定外をできるだけなくす」ことを学んだはずである。様々なタイプの地震が起きることを「想定内」とし、必ずやって来る巨大災害に向けて今から準備していただきたい。

著者紹介

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

京都大学教授

1955年生まれ。東京大学理学部卒業。通産省を経て97年より京都大学教授。専門は地球科学。テレビや講演会で科学を解説する「科学の伝道師」。京大の講義は毎年数百人を集める人気。著書に『地震と火山の日本を生きのびる和恵』(メディアファクトリー)、『火山と地震の国に暮らす』(岩波書店)、『火山噴火』(岩波新書)『もし富士山が噴火したら』『座右の古典』『一生モノの勉強法』(以上、東洋経済新報社)など。

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