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「ソーシャルビジネスやりたいっす!」 という君へ

駒崎弘樹 《社会起業家、NPO法人フローレンス代表》

2015年12月30日 公開 2015年12月30日 更新

「ソーシャルビジネスやりたいっす!」 という君へ

『社会を変えたい人のためのソーシャルビジネス入門』(PHP新書)より

 

NPO、社会起業、ボランティア……

東日本大震災で見えた日本の未来

2011年3月11日に起きた東日本大震災。マグニチュード9.0の巨大地震、そして、沿岸部を飲み込んだ大津波、さらには東京電力・福島第一原発での事故……。

この大地震と大津波は、岩手、宮城、福島の東北三県を中心に、とてつもない被害をもたらした。自治体の施設、そしてその職員たちが被災し、行政機能が完全にストップしてしまったところも少なくなかった。困っている住民たちを助けたくても、行政サイドはそれどころではなくなってしまったのだ。

そのとき、何が起こったか。

「被災地を助けよう」と、全国の個人や組織が動き始めたのだ。彼らは自らの意思で被災地に入り、「できるところからやっていこう!」と、復興のための様々な活動に従事した。ある人たちは、避難所で食べ物を配り、ある人たちはがれきの撤去を行い、ある人たちは被災した人たちの心のケアにあたり……。

東日本大震災では、その復興のプロセスにおいて、公の機関とは関係のない、こうしたボランティアな立場で活動する人々が大きな存在感を示した。

僕自身も、「希望のゼミ」(被災地の子どもへの学習支援)や、「ふくしまインドアパーク」(放射能の影響で、外で遊べない地域の多い福島において、子どもたちが遊べる場所を屋内で運営する事業)という活動を通じ、この復興の現場にいた。

そこで感じたのは、「ここには、未来の日本の縮図がある」ということだ。東日本大震災の復興のプロセスで起こっていることは、未来の日本の姿だと強く感じたのだ。

それは、行政の手が回らないところを、自分たち一般市民で補っていくという姿。人々が社会をよりよくするために、自主的に活動に参加していく姿。

未曽有の大災害という、いってみれば特殊な状況が、人々をそうさせたという側面はあるだろう。それでも、今後、中長期的に見ると、日本はそういう社会に変わっていくだろう。

いや、変わっていかざるを得ない。そう強く感じたのだ。

 

「行政が何でも解決してくれる」は、もはや無理

日本は「課題先進国」と呼ばれる。世界の国々に先駆けて、様々な課題に直面している国、という意味だ。世界でもっとも早いスピードで進んでいる少子高齢化などは、その典型だろう。

そして、この少子高齢化は、じつは、戦後の日本社会において「当たり前」とされていた「行政が何でも解決してくれる」というモデルを破壊しつつある。

理由は簡単だ。このまま少子高齢化が進めば、人口減少による経済の縮小や税収の減少が起こるのは確実で、そうなれば、行政をきちんと機能させるための財源が確保できなくなるからだ。

それは、何も遠い未来の話ではない。元総務大臣の増田寛也氏(東京大学大学院客員教授)は2014年に「増田レポート」を政府に提出。そこには、「2040年には約半数の自治体が消滅する」という、あまりにもシビアな内容が綴られていた。

高齢化率が3割を超え、主要な産業も去ってしまった東北の小都市は、こうした厳しい日本の未来を既に先取りしている。

日本全体を見ても、「1億総中流」と言われたのは遠い過去の話となり、いまや子どもの6人に1人は貧困状態にある。さらに20代のひとり親の八割が貧困だ。いままさに、「日本」という国の底が抜け始めているのだ。

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沈みかけている「日本丸」という大型船

著者紹介

駒崎弘樹(こまざき・ひろき)

社会起業家、NPO法人フローレンス代表

1979年生まれ。認定NPO法人フローレンス代表理事、(財)日本病児保育協会理事長、NPO法
人全国小規模保育協議会理事長の他、全国医療的ケア児者支援協議会事務局長。慶應大学
総合政策学部卒業後、2004年NPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型病児保
育」サービスを首都圏で開始。10年、待機児童問題解決のため「おうち保育園」を創設。後に「小
規模認可保育所」として国策に採用。14年、日本初の障害児専門保育所「障害児保育園ヘレン」
を創設。07年ニューズウィーク「世界を変える社会起業家100人」に選出。10年より内閣府政策調査員、厚労省イクメンプロジェクト推進委員会座長等を歴任。著書に『「社会を変える」を仕事にする 社会起業家という生き方』(英治出版)、『働き方革命』(ちくま新書)等多数。

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