ストレスフルな環境の中で、「うつ病」と聞けば誰しも他人事とは思えないはず。どんな職場にもうつ病で休職する人や、「もしかしてうつ病かも?」という人がいるのではないだろうか。
自分が、同僚が、部下がうつ病になってしまったとき、あるいはその疑いがあるとき、どうすればいいのか。うつ病の基本をここで学んでおこう。(取材・構成:川端隆人)
※本稿は(『THE21』2015年10月号より)
知っておきたいうつ病の「今」
厚生労働省の調査によれば、現在、日本にはうつ病の患者が約70万人いるとされています。1990年代までは20万人台で推移していたことを考えると、うつ病は激増していることになります。ただし、これは病院にかかった人数なので、すべての患者をカバーしているわけではありませんので、実際の患者数は正確にはわかりません。
一方で、うつ病に対する啓発が進み、ハードルが下がって受診者数が増えた、ということも考える必要があるでしょう。これらのことを踏まえても、やはりうつ病は増えていると言っていいでしょう。うつ病が増えた原因については、いくつかの見方が可能です。
マクロレベルで言えば、日本社会の変化、国民性の変化が挙げられます。かつての日本には、「額に汗して頑張らなくてはいけない」「真面目に働かなくてはいけない」という倫理観がありました。それが良いか悪いかは別として、確固たるよりどころとなるものがあったわけです。
ところが、その倫理観がなくなってきて、なおかつそれに代わる原理も出現していない、というのが今の日本の現状です。そのため、生きがい、やりがいを各自が見つけなければならず、迷っている。これが現代の日本人なのではないでしょうか。そこに不況の長期化による雇用の不安定化といった要素も加わって、ますます不安が高まっているわけです。
ミクロなレベルで言えば、成果主義を取り入れる企業が増え、プレイングマネージャー化が進み、上司が部下をケアできなくなるなど、かつてのような家族的な会社の在り方(これもまた、マイナス面も多かったのですが)が失われたことも、うつ病の増加に影響しています。
患者数が増えているだけでなく、最近では「新型うつ病」などと言われ、「うつ病の形が変化している」という見方もメディアではよく取り上げられます。
たしかに、実際に診察していると、変化を実感することはないわけではありません。そもそも、典型的なうつ病は、真面目で几帳面、かつ他人に気を使うタイプの人がかかる病気です。要するに、真面目人間が強い抑うつ気分を訴えるのがうつ病とされてきたわけです。
ところが最近になって、必ずしも真面目ではない人、周囲への不平不満が多い人……といったタイプが抑うつで苦しむ例が目立ってきたのは事実です。典型的な例とは違うから目につきやすい、マスコミの話題になりやすいため、あたかもうつ病の質的な変化が起きつつあるように見えるわけです。ただ、実際にはそうした変化が全面的に起こっているというわけではありません。現実には、典型的、古典的なタイプのうつ病は依然として多いのです。
前述した、真面目人間がかかりやすい典型的なうつ病は「メランコリーうつ病」と呼ばれ、クリニックに訪れるビジネスマンの多くもこのタイプです。さらに、抑うつ気分とは反対に気分が異常に高揚した躁状態の両極端の症状を持つ「双極性障害」も古典的なうつ病の一つ。
これ以外にも、例外的なうつ病として注意すべきものはあります。それについては下の図の中で説明しますが、数のうえで一番多く、職場でも問題になるのは、今でも古典的なうつ病である、ということは理解しておいたほうがいいでしょう。