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専門医が語る 「ビジネスマンのうつ病」の現在

野村総一郎(医学博士)

2015年12月30日 公開 2022年02月21日 更新

うつ病を予防するという考え方がある

うつ病を予防するためには、そもそもどんな人が、うつ病になりやすいのかを知る必要があります。鍵になるのは、「ストレス」と「ものの考え方」です。

ストレスはうつ病の原因となりますから、できるのならば、軽減したほうがいいでしょう。ただ、ストレス耐性は人によって異なります。さらに、ストレス耐性は、その人のものの考え方によって変わってきます。ストレスに弱い人は、ものの考え方を変えていく必要があるでしょう。

うつ病患者には、「ぐるぐる思考」というべき独特の考え方があります(図1参照)。ストレスに直面したとき、円環状に考えが回って抜け出せなくなる。考えていてもなんの解決にもならず、どんどん追い詰められていくにもかかわらず、発想を転換する柔軟性を持つことができないのです。

ストレスに弱い人、うつになりやすい人は、もともとこうした考え方のくせを持っていることが多いものです。まずは、そのことを意識して、自分の思考のくせを検討してみること。そして、どうやら自分はストレスに弱そうだと自覚したら、無理のない働き方にシフトすることが大切です。

このように、うつ病にならないようにする予防を「一次予防」といいます。これに対し、うつ病が治った人が、再発しないようにすることを「三次予防」といいます。(※二次予防は、医学的な、病気の早期発見・早期治療のことを指します。したがってこの記事では、再発防止を三次予防と表現しています)三次予防では、まず何よりも「うつ病から何を学んだか」を振り返ることが大事です。たとえば、うつ病になる人は、「自分ならできるはず」「自分がやらなくてはいけない」といった自負心が強いケースが多い。うつ病で苦しんだことをきっかけに、こうした強すぎるプライドを反省するというのはとても良いことです。

また、再発を防止するためには、治ったと感じても、医師から指示があるかぎりは薬を飲み続けることも大事。自己判断は禁物です。前述したうつ病特有の考え方のくせを変えていくために、認知療法の一つ、コラム法(図2参照)による性格改造も一つの手といえるでしょう。

認知療法は、基本的には専門家のサポートを受けながら行なうことになりますが、基本的なことは書籍などでも学ぶことができます。うつを呼び込みやすい考え方のパターンを知り、修正していくというものです。性格改造とまではいかなくても、「全か無か思考」「過剰な一般化」「心の読み過ぎ」といったうつ的な思考パターンを知り、なんとなく気をつけるようにしておくことは有効です。これは一次予防にも役立つでしょう。

再発防止のために定期的に通院するのは当然のことですが、まだうつ病にかかったことがない人が、気軽にメンタルクリニックに行ってみるのもいいことだと思います。私の場合、新聞の人生相談を担当していることもあって、とくにこれといった症状はないけれども「人生相談をしたい」と来院される方がときどきいらっしゃいます。これは、大学病院の精神科などに比べればハードルが低く、気軽にかかれるというメンタルクリニックの特長を活用した好例です。

自己診断テストで「うつ病かも?」と思ったときはもちろん、「最近どうも気分が優れない」「これまで楽しかったことを楽しいと感じられなくなった」といったことがあれば、まずはクリニックのドアを叩いてみるといいのではないでしょうか。

著者紹介

野村総一郎(のむら・そういちろう)

医学博士

1949年、広島県生まれ。慶應義塾大学医学部卒業後、テキサス大学や立川病院神経科などを経て防衛医科大学校精神科教授に。現在は、JDC精神療法センター所長兼、六番町メンタルクリニック所長を務めている。著書は『うつ病をなおす』(講談社)など多数。

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