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甘え方を知らない人はうつ病になりやすい

2014年04月07日 公開

和田秀樹(精神科医、国際医療福祉大学大学院教授)

《PHP新書『「うつ」だと感じたら他人に甘えなさい』より》

 

「うつ病は心の弱い人がかかる」という誤解

 ご承知の通り日本は世界に冠たる長寿国である。2012年の厚生労働省の発表では、男性の平均寿命は79.94歳、女性は86.41歳となって、それぞれ前回調査よりも寿命が延びている。その長寿を、ただ「生存している」だけでいいと思っている人はいないはずだ。

 私たちはただ長生きをしたいのではない。健康に、長生きしたいのだ。だからこそ、中高年になると、がぜん健康情報に興味を持つ人が多くなる。もっとも、多くの人が気にしているのは、「ガンにならない食事」や「メタボ対策」などであり、そのような身体の病気以外には、「ボケ防止の生活習慣」のように認知症対策に心を砕くのがせいぜいだ。

 だが人生には落とし穴はほかにもある。それが、うつ病である。

 一般的に、うつ病はあまり関心を持たれていないようだ。自分には関係ない」と思っている人が実に多いのである。しかし、少し大きな会社なら、「○○さん、うつ病で休職しているらしいよ」と耳にすることも多いと思う。うつ病で通院しているという友人・知人がいる人も少なくないはずだ。

 うつ病にかかっている人は決して少なくないにも関わらず、うつ病についての正しい知識が広まっているかというと甚だ心もとない。むしろ、うつ病に関しては、正しい知識よりも大きな誤解が広く蔓延しているように思えてならない。

 誤解の典型としては、2009年3月に「学校には、うつ病で休んでいる先生がたくさんいる。国会議員には1人もいない。国会議員は気が弱かったら務まらない」と発言した自民党の笹川尭総務会長(当時)のような見方がある。

 もちろんこれはまったくの誤解であり、とんでもない暴言である。うつ病は「気が弱いからかかる」とか、「気合いでなんとかなる」というものではない。誰でもかかる可能性のある、れっきとした病気なのだ。

 もちろん政治家だってかかりうる。近年、ガンとの闘病を明らかにしている政治家も出てきたが、私の知る限り、うつ病を公表した日本の国会議員はいない。そのこと自体、うつ病への無理解や間違った思い込みを示しているのではないだろうか。

 日本の自殺者の約7割はうつ病にかかっていたという調査データもある。現職中に自殺した国会議員は、主だった人だけでも中川一郎氏(1983年1月)、新井将敬氏(1998年2月)、永岡洋治氏(2005年8月)、松岡利勝氏(2007年5月)、松下忠洋氏(2012年9月)と、決して少なくない。永岡氏の場合は、前年末からうつ病で通院、投薬治療を受けていたことが明らかにされたが、永岡氏に限らず、直前にうつ病やうつ状態になっていた可能性が高い人は多い。

 少し前まで、世界のさまざまな推計で、うつ病は人口の3%がかかるとされていたが、最近、WHOは、「世界人口の5%がうつ病に罹患していると考えられる」と発表した。また、アメリカ精神医学会の統計によると、男性の2~3%、女性の5~6%がうつ病にかかっており、生涯有病率は男性で5~12%、女性で10~25%になるとしている。つまり最大で4人に1人、最小でも20人に1人は、人生のどこかの時点で、うつ病にかかる可能性があると、統計的に明らかになっているのである。

 

甘え方を知らない人がうつ病になる

 このようにうつ病は世界的にもかなりありふれた病気だが、不幸なことに、日本では「心の弱い人がかかる病気」「精神力が弱い証拠」などという偏見が払拭されずにここまできてしまった。

 では「心が強い」とは、いったい何を意味するのだろうか。

 多くの人は半沢直樹のような「困難に打ち勝つ意志の力」や、「プレッシャーに負けない精神力」を持った人を、「心が強い人」とイメージしているのではないか。

 逆境においても、ひるんだりめげたりせずに目的を完遂できる人や、アグレッシブに修羅場をくぐり抜けるような人、少ない睡眠でもバリバリ働ける人なども、その範疇に入りそうだ。叱責や苦情にもめげない「打たれ強さ」も重視されるだろう。

 オリンピックで重圧をはねのけて金メダルを取るような選手や、サッカーの「決めればワールドカップ出場、はずせば出られない」といった場面でも、しっかりとシュートを決められる選手などは「メンタルが強い!」と賞賛されるに違いない。

 しかし、どんなにアグレッシブでタフに見えても、40歳や50歳でポキンと折れてしまうのでは、「心が強い」とはとても言えない。

 スポーツ選手の場合、うつ病になりやすくなる40代~50代には、通常、現役を引退しているため、いつまでも修羅場に強いイメージが残る。しかし、ビジネスマンは65歳の定年まで現役として働かないといけない。もちろん退職後の人生も長い。今のご時世では退職に追い込まれると生活基盤を失いかねないから、非常に危険である。

 少なくとも現代では、心の強さを「修羅場に強い」とか「睡眠時間がとれなくても平気で頑張れる」といったモデルで想定することはできない。こうした体力自慢の男性的な「心が強いモデル」は旧来型なのだ。

 精神的にマッチョな人間は、他人には攻撃的でも、自分自身が打たれ強いわけではない。むしろ、自分自身の弱さを他人に見せないために、わざと攻撃的に振る舞っている場合も多い。それでは本当の心の強さとはいえない。

 それよりも、見た目にはそれほど強くなさそうでも、困ったときには助けてくれる友人や家族がいる人のほうが、いざとなれば周囲から助けてもらえるということを知っており、ずっと生き延びていける。

 あるいは、甘え方を知らない人こそがうつ病になりやすいと言ってもいいだろう。

 だからこそ私は、「打たれ強い人」や「心が強い人」とは、「打たれたときに誰かに頼れる人」「修羅場でも生き延びる方法を知っている人」なのだと主張したいのだ。間違っても「打たれても平気な人」「修羅場でもアグレッシブな人」ではないのである。

 

うつ病に対する正しい知識を

 さきにも述べたように「心の強い人」の条件は、「他人に頼ることができる」ことと、「メンタルに関する知識をもっている」ことである。基本的にはうつ病に関して、ある程度の知識をもっておくことが大切だ。

 しばしば「うつ病は心の風邪」という言い方をされる。それくらい「よくある病気」という意味だが、症状などで似ている点も多い。

 たとえば、風邪で熱が出たときのような体の異様なだるさはうつ病の特徴である。3~4日で治る風邪と違い、長く続くうつ病は、かなりつらい病気なのだ。また風邪をこじらせて肺炎になると命に関わってくるように、うつ病も悪化すると自殺につながるケースもある。風邪と同様に、軽く見ていると重い結果になりうるところも類似している。

 しかし風邪と大きく異なる点は、自然治癒が期待できないことだ。風邪ならば、医者にかからず薬を飲まなくとも、週末にたっぷり寝ていれば治ることもあるが、うつ病はそういうわけにはいかない。適切に医者にかからなければ、自然に寝ていて治るということはないのだ。

 現在、うつ病は「心の病気」ではなく「脳の病気」だという考え方が主流になっている。それも、最近までは脳内の神経伝達物質の不足によるものと考えられてきたのが、神経伝達物質の低下の影響で脳の神経細胞にダメージが及んでいる状態だとする説が有力となってきた。

 したがって、うつ病は「気の持ち方」次第で治るような、一時の落ち込んだ状態とは異なり、医学的な治療が必要な疾患なのである。だからこそ早期発見、早期治療が重要だ。もし、うつ病になったら、軽いうちに治すことが大切となる。

 軽い抑うつ状態のうちに治して、完全なうつ病になるまで悪化させないようにすれば、「人生全体のリスク」を下げることができるのである。

 ストレスの多い現代の日本では、こうしたことを知っているのと知らないのとでは、人生そのものが大きく変わってしまう。うつ病に対する正しい知識も、現代を生き延びるための「心の強さ」に欠かせない要素と言えるだろう。

 

<書籍紹介>

「うつ」だと感じたら他人に甘えなさい

和田秀樹 著

うつにならないためには「プレッシャーに負けない」ではなく「ストレスを逃がす」のが大切――。その方法論や発想法を精神科医が伝授。

 

 



著者紹介

和田秀樹(わだ・ひでき)

精神科医

1960年、大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カールメニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、国際医療福祉大学大学院教授(臨床心理学専攻)、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部非常勤講師、和田秀樹こころと体のクリニック(アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化したクリニック)院長。著書に、『感情的にならない本』『自分は自分 人は人』(以上、新講社)、『不安にならない技術』(宝島社)、『心と向き合う臨床心理学』(朝日新聞出版)、『医学部にとにかく受かるための「要領」がわかる本』『すぐに、人間関係がラクになる本』(以上、PHP研究所)、『老人性うつ』『「がまん」するから老化する』(以上、PHP新書)、『うつ病は軽症のうちに治す!』『「思考の老化」をどう防ぐか』(以上、PHP文庫)など多数。

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