「ブーム」はいずれ去るものだが、日本では永遠に「生姜ブーム」が続くだろう、と私は確信している。
なぜなら、日本では生姜は1000年以上も「民間薬」として、また「健康食品」として、使われ続けており、日本人は「生姜の効能」を潜在意識下に感得しているからである。3世紀頃、稲作とともに中国経由で伝わってきた「生姜」であるが、「魏志倭人伝」(3世紀後半)に「生姜やみょうがの利用の仕方がわからない」などと書いてある。しかし、平安時代になると、生姜が栽培されるようになり、日本最古の医学書である「医心方(いしんほう)」(984年頃)には「平安貴族たちがすでにこの頃、生姜の薬効を認め、風邪薬として愛用していた」と記載されている。
また、すりおろし生姜と砂糖を湯に溶いて作る「生姜湯」は、古くから風邪の民間薬として重宝されている。
我々の幼少時は、海水浴に行くと冷えた体を温め、疲れた体を回復させる「特効薬」として生姜汁と麦芽糖がたっぷり入った「アメ湯」が売られていたものだ。
今でも「すりおろし生姜」は、冷奴、湯豆腐、カツオのたたき等に薬味として用いられる。天ぷらの消化をよくするために、ダイコンおろしの上に生姜をおろして加え、天つゆに入れる。
寿司のつけ合わせのガリ(生姜の甘酢漬け)は、ひね生姜を刻んで甘酢に漬けたものだが、寿司のネタ(魚介類)による食中毒を予防したり、つい食べ過ぎる傾向になる寿司の消化をよくしたりするためのものである。
豚肉の生姜焼き、魚やレバーの生姜煮(煮汁に生姜を細かく切って入れて煮立てる)などの料理は、肉の消化をよくし、魚やレバーの臭みを取る作用が生姜にあることが経験的に知られていたことを示している。さらに生姜醤油は、香味として用いられている。
その他には、
「生姜酒」……すりおろした生姜と、砂糖を加えた酒。体を温める効果がある
「生姜酢」……すりおろし生姜を入れた酢
「生姜漬け」……生姜の根茎をうすく切って砂糖につけた菓子
「生姜茶」……すりおろし生姜を湯と煎じた茶
「生姜糖」……氷砂糖を煮て、生姜汁を入れ板状に固まらせた菓子。生姜板
「生姜味噌」……生姜の根茎を切り刻んで味噌に混ぜ、火に炙って作る
なども、用いられてきた。
地域によっては、贈答に生姜を用いる「生姜節句」(八朔の別称)や「生姜市」(東京都港区の芝大神宮で、毎年9月11日~21日の祭礼に、その境内に立つ生姜を売る市)なども行われてきた。
このように、日本人と生姜とは切っても切れない縁があり、生姜の健康効果を漠然と知っていた日本人に、生姜の効能を示す世界の文献を私が医学的に提示したことにより、多くの人々が「生姜」の効能を科学的にも経験的にも確信することができ、ここ数年の「生姜ブーム」が到来したと言ってよい。
こうした背景をかんがみると、日本での「生姜ブーム」は将来的にも決してすたれることはないと確信する。
欧米でも生姜は、日本ほどではないにしても食べ物の中に取り入れられている。ジンジャーエール(生姜で味付けした清涼飲料)、ジンジャービール、ジンジャーブランデーなどは、強壮作用のある飲料・アルコールとして用いられてい
る。生姜、レモン、干しブドウ、砂糖をミックスして発酵させて作るジンジャーワインも疲労回復や食欲増進作用が強力だ。
また、生姜入りのパンやお菓子はジンジャーブレッドやジンジャースナックと呼ばれ、食べるとピリピリとした辛味があり、身が引き締まり、元気が出てくる。
英和辞書で生姜(ginger)を引いてみると、「(名詞)1)生姜 2)元気、意気、軒昂、ピリッとしたところ (動詞)1)……に生姜で味をつける 2)元気づける、活気づける、励ます、鼓舞する」とある。
There is no ginger in him.は「彼には気骨がない」という意味で「ginger group」は、政治の世界で「小さいけれど、元気のある政党」の意味だそうだ。
生姜湯に 顔しかめけり 風邪の神 高浜虚子
俳人の高浜虚子も生姜の効能を知っていたのであろう。