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生き方

老後は自分が心から愉しめるものにお金を使いなさい

川北義則(生活経済評論家/出版プロデューサー)

2016年04月29日 公開 2024年12月16日 更新

老後は自分が心から愉しめるものにお金を使いなさい

『恰好いい老い方、みっともない老い方』より

 

定年退職を迎えて……

 定年退職を迎えて、さあ、明日からは自由の身だ、と肩の荷を降ろした気分になっても、さて、現実に“毎日が日曜日”になると、なにをしていいかわからなくなる。思いっきり遊びたいと思っても、いままで仕事一途でやってきたサラリーマンにとっては、ありあまる時間をどんな遊びに使っていいかわからないのが現実だ。

 20代で会社勤めを始めて、定年退職までの毎日の労働時間と、いざ定年になって男の平均寿命である80歳まで生きている自由時間が、ほぼ同じというデータもある。そのくらい時間はたっぷりあるのだ。

 だが、なにをするにも先立つものはお金だ。ある程度の貯金があって退職金もある。そして年金ももらえる。だが、これからの老後は不安だからといって、ケチケチ生活に徹する退職者もいる。だが、そんなつましい生活を送ってお金を残したまま死ぬのはバカらしいではないか。高齢者たちは平均して、2000~3000万円のお金を残して死ぬといわれているもったいないデータもある。

 退職後は時間がたっぷりある。もっと自分のためにお金を使って残りの人生をエンジョイするのが、人生をまっとうすることではないだろうか。

 とはいっても仕事一途、会社一途で送ってきたマジメ人間には、なにをどうしていいかわからない人もいる。といって家に閉じ込もれば女房がおかしくなる。いままで妻は友だちと会ったり、食事したり、昼間自由に行動していたのが、亭主がいるために家に居ざるを得なくなったため、体に変調をきたすケースが少なくないという。「夫原病」である。

 もちろん、退職後は苦労をかけた妻と国内外の旅行もいいだろう。だが、たっぷりある時間の使い方は基本的に一人行動をして遊びや趣味のためにお金を使うのがいい。妻は妻、夫は夫での行動の自由が原則だ。

 ふつう遊びというとすぐに趣味が思い浮ぶが、それも履歴書の趣味欄に書くような読書・音楽鑑賞ではつまらない。趣味とひと口に言ってもその世界は広く、写真、自転車、バイク、陶芸、俳句、スキー、ダイビング、サーフィンなどさまざま、それらの世界を自分なりに掘り下げていくのも面白いに違いない。

 また、もう一度勉強と学校へ通うのもいい。

 とにかく家にいてテレビばかり見ていたのでは運動不足になる。そして、認知症でボケ老人になるのがオチではないか。したがって自分で週に何回か外出することを義務づけた方がいい。そして大切なのは自分自身がどのくらいお金が使えるかだ。映画や演劇、コンサートに行ってもお金がかかる。まず、毎日の小遣いを確保することだ。

 現役時代に妻から小遣いをもらっていたのでは、また同じことを繰り返す。ここは大改革をして、まず自分が使えるお金をしっかり確保することだ。月に2~3万円ではもの足りない。少なくとも5万円は必要だろう。とにかく、いま4人に1人が65歳以上。そして彼らは日本の全個人金融資産1700兆円の半分以上を持っている。お金持ち族なのである。自分の死期がわからないからといって、お金を貯め込んでおくのはもったいない。

 時間がたっぷりあるので、家の中にこもって、なかには自分史をせっせと書いている人もいる。自費出版するつもりなのだろう。自費出版は費用がバカにならない。一応恰好のついた本にすれば300万円くらいかかる。だが、そんな費用をかけた自分史をいったい誰が読むのかと思う。儲かるのは出版社だけである。また生前に遺言の書き方から始まって遺産をどうするかといった“終活”も、周囲の関連企業だけが儲かるので、自分の死をそんな人たちの金儲けの手段にさせてはいけない。人間、死んだらゴミになるだけだ。自分の死後はどうなろうと残された人たちに任せればいいではないか。

 老後は自分が心から愉しめるものにお金を使いなさいと言いたい。

著者紹介

川北義則(かわきた・よしのり)

生活経済評論家

1935年、大阪府生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、東京スポーツ新聞社に入社。文化部長、出版部長を歴任する。77年に同社を退社後は、独立して日本クリエート社を設立。出版プロデューサーとして活躍するとともに、生活経済評論家として執筆・講演活動を行う。主な著書は、『男の品格』『男の生き方』『みっともない老い方』(以上、PHP研究所)、『「20代」でやっておきたいこと』(三笠書房)、『男は人とどうつきあうべきか」(大和書房)など、100冊を超える。

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