なぜ事業承継がうまくいかないのか
2016年05月13日 公開 2016年05月18日 更新
後継者を育て、事業承継を円滑に行なうために留意すべきこととは? 会社員時代に幅広い分野で活躍し、現在、経営コンサルタントとして後継経営者教育に力を入れている鋳方貞了氏が、事業承継における陥りやすい問題点や徹底すべきポイントを具体的な事例をもとに解説する。
※『衆知』2016年5・6月号、連載第1回「後継者育成のためのキーポイント」より一部抜粋
後継者が陥りやすい5つの落とし穴
バトンタッチがうまくいかず、経営に支障をきたした典型的な事例を以下にまとめます。皆さんもどこかで見たり聞いたりしたことがある話ばかりだと思います。後継者がこのような落とし穴に陥らないために、先代として何をすべきかを考えていただければと思います。
先代社長との経営方針の違いで感情的な対立にまで発展するケース
たとえ親子であっても、先代社長と後継社長とでは育った時代や環境が違います。「これからの事業環境にどのように対応するのか?」についての考え方が異なるのも当然だと思います。
最初は経営方針をめぐる考え方の違いであってもそれが長引くと、親子間の感情的な対立に発展することがあります。「なぜ、こんなことに?」という事態に陥らないように、お互いに冷静に対応することが肝要です。
後継社長が社内改革を焦り、社員の反発を招いて自滅するケース
新任の社長は、1日でも早く自分の存在を社内に認めさせようと焦るものです。社内改革への取り組みも、あまりに急ぎすぎる場合は社員の反発を招き、社内で孤立してしまうような事態になりかねません。社長就任から1~2年は様子見をするぐらいの余裕を持った態度が望ましいと思います。
先代の番頭格だった古参社員が後継社長に反発し、何もできなくなるケース
社歴が長く、先代社長の番頭格だった古参社員は、社内に対して強い影響力を持っています。また、後継社長以上に会社の業務にも精通していることから、こうした古参社員の協力なしには社内改革を進めることはできません。しかし、後継社長とこうした古参社員とは親子ほども年齢が離れていて、後継社長が何も言えなかったり、古参社員が自己の保身から後継社長の社内改革に対する抵抗勢力となったりすることもあります。
後継社長とそうした古参社員がよい関係をつくれるかどうかを見極め、もし難しいようなら辞めてもらうなど、こうした対応については、先代社長の責任において考えるべきことでしょう。
会社の事業に直接関わっていないファミリー(株主)が経営に口出しするケース
先代社長が事業に直接関わっていない自分の兄弟や子供たちに、会社の株式を分散して渡すことがよくあります。このため、株主総会での議決権が分散し、重要な会社の意思決定に支障をきたすことが少なくありません。相続にあたっては、できるだけ株式を分散させないことが大事ですが、後継社長もそうした事態を放置せず、専門家と相談して、できるだけ早く解消することです。
後継社長がまわりの重圧に耐えきれなくなり、会社を辞めてしまうケース
後継者はまわりからちやほやされていると思われがちですが、実際には厳しい目で見られています。「社長の息子(娘)だからといって何ができるのか?」「本当に後継者としてこの会社をちゃんとやっていけるのか?」と思われているのです。事業を引き継ぐにはこの重圧に耐えていかなければなりません。この重圧に耐えきれなくなって、後継者が会社を辞めるケースが時々見受けられます。実にもったいないことだと思います。
ファミリービジネスには、代々培ってきた事業基盤や経営ノウハウなど、様々な蓄積があります、企業経営というやりがいのある仕事をしようと思うのであれば、一から起業するより、親の会社を引き継いで発展させたほうがリスクははるかに小さいはずです。また、そのようなチャンスは誰にでも与えられるものではないのです。
後継者はぜひこのチャンスを活かし、現社長は後継者がつまずかないように、しっかりと教育し、フォローしてあげていただきたいと思います。