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経営者ならば孫子に学び、兵法家であれ~越智直正(タビオ株式会社会長)

松下幸之助経営塾講義録

2016年02月18日 公開 2016年04月05日 更新

経営者ならば孫子に学び、兵法家であれ~越智直正(タビオ株式会社会長)

構成:荒木さと子 写真撮影:永島 寿 2015年5月22日収録

古典は人生の応援歌! 国産靴下に捧げた60年

 

15歳で靴下問屋に丁稚奉公

ぼくは1939(昭和14)年に愛媛県周桑(しゅうそう)郡に生まれて、15歳から大阪の靴下問屋で丁稚奉公をしました。だから学歴は中卒です。子どものころは勉強もせずに、悪さばかりしていました。

それだけ勉強嫌いだったぼくが、大阪に丁稚奉公に出るとき、国語の先生から言われた言葉があります。「直正、おまえは勉強せんかったなあ。でもな、丁稚奉公だって勉強は要るぞ。大阪に行ったら本を読めよ。中国の古典を読め」。言われたときは笑って聞き流しました。

「学校やめて奉公に出るのに、いまさら勉強やなんて、この先生は何言うてんのかいな」と。

しかし、いざ大阪に行くと、ぼくはほかの丁稚たちにおもちゃのように扱われました。学はないし、田舎の言葉だから、ものを言ったら笑われる。サンドバッグのように殴られもしました。

いま考えてもひどい話ですが、いろいろな殴り方の練習台にさせられるんです。ぼくの上の人たちはみんな軍隊あがり。そんな人たちから「歯をくいしばれ」と殴られ、アホやボケやとボロクソに言われる。さすがのぼくも「これではあかん」と考えるようになりました。

そんなあるとき、国語の先生に言われたことを思い出しました。それで、「中国の古典はありまへんか」と古本屋に入ったのです。店主が黙って指したのは『孫子』。そのときは「まごこ」と読んだ(笑)。あとになって「そんし」だと分かったくらいです。とにもかくにも、それがぼくの古典勉強の始まりでした。

 

人生の根本を学ぶ

古典の勉強を始めてから60年。内容は3年で暗記したものの、理解はいまだにできていません。

世の中に「枝葉」のことを書いてある本はたくさんあるけれど、「根本」を教えているのは古典だけだとぼくは思います。だから皆さん、古典を読みなはれ。

古典は人生の応援歌や。

経営学では、過去の経営手法や経営者について学びます。そういう意味では、経営学は歴史学だともいえるでしょう。歴史学を勉強したら、人間には一定の法則があるということが分かる。われわれは東洋人だから、東洋の古典を勉強したほうが覚えはいい。古典を勉強したら、経営上、とても助かると思いますよ。

同業者の中で頭角を現す存在になりたければ、『孫子』は絶対に読むべきやね。ただし、隅から隅まで読む必要はありません。中国の古典は最初に大事なことがビシッと書いてある。それさえ分かったらいいんです。『孫子』でいえば、「道、天、地、将、法」。この5つを覚えたら戦い方は簡単なのです。

「道」は、社員やお得意さんにどういうふうに向き合えばよいか。つまり、歩むべき正しい道のこと。結局、正しいことをやっていくのが商売の本質です。

たとえば、「何でも安いものがいい」ということを疑ってみる。ほんとうに安かったら何でもいいのか?それは正しいことなのか?競争相手と比べて、どちらが正しいことをしているか、それを考え続けることです。

次に、いつ戦ったらいいのか。これが「天」です。天とはわれわれの言葉でいうと時機のこと。いまが戦うときかどうかという判断は、とても大事です。

「地」は地の利。たとえば店をやるなら、どの場所が有利かよく考えて出店する、ということです。

「将」とは大将のこと。大将に求められるのは、謀(はかりごと)ができること、嘘をつかないこと、仁愛に富むこと、そして厳格さでしょう。大将は厳しさを超えたやさしさを持たなければなりません。そして、やさしさを超えた厳しさも同時に持たなければならない。

「法」とは装備、組織、会社の規律のこと。競争相手と自社を比べてみて、どちらが勝っているか。もし負けているところがあるなら、まずそこを補填してからでなければ、戦ってはいけません。

こんなことを教えてくれる人がいますか?古典はちゃんと教えてくれますよ。

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経営者は兵法家たれ

著者紹介

越智直正(おち なおまさ)

タビオ株式会社代表取締役会長

1939年愛媛県生まれ。15歳で大阪の靴下問屋に丁稚奉公に出る。1968年ダンソックスの商号で総合靴下卸売業を創業。1977年株式会社ダン設立。1984年福岡・久留米市に靴下専門店「靴下屋」の1号店を開店。その後も国内外に積極的な展開を図り、同社は靴下の製造・卸・小売で国内トップ企業となる。2006年タビオ株式会社へと商号変更。2008年より現職。

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