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スティーブ・ジョブズもジェフ・ベゾスも学んだ「トヨタ 最強の時間術」とは?

桑原晃弥(経済・経営ジャーナリスト)

2016年06月01日 公開 2022年09月29日 更新

スティーブ・ジョブズもジェフ・ベゾスも学んだ「トヨタ 最強の時間術」とは?

『トヨタ 最強の時間術』より

80年かけて磨き込まれた「時間哲学」のすべて

当たり前のことですが、私たちは「もっと速く!」と言われても、そうそう速く動けるものではありません。

だとすれば、スピード競争の明暗を分ける要素は何になるのでしょうか。

端的に言えば、「時間の質を高めること」がトヨタ式の答えです。

このたった一言を追求した結果が、生産台数世界ナンバーワン、純利益2兆1730億円(平成27年度)というトヨタの業績になっているのです。

トヨタ式「時間の質」をよく表わす2つの言葉があります。

1つは、生産のリードタイム(所要時間)を10日から3日に短縮したと誇る経営者に、あるトヨタマンが助言した言葉です。

「3日ではなく、72時間と考えてみてはどうですか」

それは「時間の単位を変える」という意味でした。10日を3日にした後、さらに1日を削るのはさすがにプレッシャーでしょう。でも、「24時間を23時間に」「60分を59分に」と考えれば、また新しい知恵が出てくるのではないでしょうか。

どれほど長い年月も「1分1秒の積み重ね」だと見て改善を続ければ、人はかなりのことを成し遂げられるのです。

もう1つは、トヨタのグループ会社のある役員から聞かされた言葉です。

「10年経ったら、トヨタ本体に負けない社員に育ててみせる」

かつて私は、人材採用や就職のコンサルタントをしていました。

どんな大学の学生を何人「採る」かに明け暮れていると、時間をかけて「育てる」感覚が薄れてきます。それは会社も同じです。変化のスピードが速い現代、人材は「育てる」よりも「採る」ものになりつつあります。

そんな時代に、10年単位で人を育てようとするトヨタ式に衝撃を受けました。

人づくりには長い時間がかかります。

トヨタ式は、それを少しも省きません。一方で1分1秒を惜しみながら、時間を使うべきところには惜しみなく使うのがトヨタ式なのです。

それは、「時は命なり」「ムダをなくすことは自分の人生を充実させることであり、他人の命を尊重することである」というヒューマニズムにもつながっていきます。

私のライフワークの1つに、スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)やジェフ・ベゾス(アマゾン創業者)といった「巨大な成功を収めた個人」の研究があります。

それは「1人の100歩より、100人の1歩を大事にする」チームワーク重視のトヨタ式と正反対に思えるかもしれません。

ところが、実は彼らはトヨタ式の信奉者なのです。

ジョブズは若い頃からトヨタ式を学び、トヨタ式の工場をつくったり、トヨタ式に詳しいティム・クック(現アップルCEO)をスカウトすることでマイケル・デル(デル創業者)の追撃宣言をしたりしています。

そのデルはトヨタ式の確定受注生産を導入することでパソコン販売に革命を起こしましたし、ベゾスも改善の考え方でアマゾンの膨大な物流をさばき、トヨタ式の「『なぜ』を5回繰り返す」やり方でサービスやシステムを飛躍的に改革しています。

本書では、そういう海外の視点からもトヨタ式を眺め、新たな発見ができるように努めました。

「トヨタ式の導入」「トヨタに学ぶ」というと、多くの人は「ものづくり」を連想しますが、トヨタ式の本当の凄さは、世界一のものづくりを支える時間術にあります。

ただ、それはトヨタ式にとってあまりに当たり前のことだったので、強さの秘密としてまとめられた本は、これまでありませんでした。

本書は、トヨタ式の根幹をなす時間術に初めてスポットライトを当てるものです。

私たちは、遠大な目標や難題に対しては「時間がかかり過ぎる」と不満を口にし、地道な努力の積み重ねには「大した成果は出ない」と不平を言いがちです。

しかし、大切なことは「長期の時間軸」と「短期の時間軸」の2つの軸の中で、自分にとっての最も良質な時間を見つけていくことではないでしょうか。

今の時代、私たちは常に結果を求められ、急がされます。でも、だからこそ、ゆっくりたゆまず、小さな一歩を積み上げ続けることです。ふと後ろを振り返ると想像もできない高みに来ていた、というのがトヨタ式時間術なのです。

本書が読者のみなさんの時間をより豊かにしていく一助となれば、これにまさる幸せはありません。

 


桑原晃弥(くわばら・てるや)

1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者、不動産会社、採用コンサルタント会社を経て独立。転職者・新卒者の採用と定着に関する業務で実績を残した後、トヨタ式の実践、普及で有名なカルマン株式会社の顧問として「人を真ん中においたモノづくり」に関する書籍やテキスト、ビデオなどの制作を主導した。主な著書に『1分間アドラー』(SBクリエイティブ)、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP文庫)、『スティーブ・ジョブズ 神の仕事術』『運が開ける! 名経営者のすごい言葉』(以上、PHP研究所)、『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)などがある。

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