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途上国型社交での人脈づくり~ハイブリッド外交官・宮家邦彦の仕事術

宮家邦彦(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)

2016年07月25日 公開 2022年12月28日 更新

途上国型社交での人脈づくり~ハイブリッド外交官・宮家邦彦の仕事術

PHP文庫『ハイブリッド外交官の仕事術』より一部抜粋編集

 

途上国型社交に慣れよう

基本ルールは同じ

社交は人間対人間の関係です。だから、開発途上国での人脈作りも、基本的には先進国でのものと変わりません。とくに、自由・民主主義が確立した開発途上国の場合は、これまで述べてきた基本的テクニックが十分使えるだろうと思います。そうした国々のエリートの多くは海外留学経験があります。ですから、あなたが英語さえ喋れれば、かなりの仕事ができるだろうと思います。

問題は自由・民主主義のない独裁主義国家に住む場合でしょう。私の場合、米国ワシントン以外では、中国とアラブ諸国(イラクが2回とエジプト)での在勤経験しかありません。残念ながら、これらの国々では外国人との自由な付き合いを制限されることが多かったため、随分苦労した思い出があります。

そのような国々での社交は独特です。例えば、1982~84年に在勤したイラクはサダム・フセインが大統領でした。当時のイラクはバアス党独裁の恐怖政治であり、しかも1980年からイランと戦争状態にありました。当然ながら、外国の外交官は基本的に「スパイ」と看做されますから、当時イラク人で外国人と付き合う勇気を持つ者はほとんどいませんでした。

イラク在勤2年余りで我が家での自宅接宴に応じてくれたイラク人はたった1人、しかもクルド系のジャーナリストだけでした。これに比べれば、北京での自宅接宴は天国です。政府中堅幹部や官製ジャーナリストはもちろん、比較的発想が自由な芸術家も、画家からロック歌手まで、じつに多彩なゲストが来てくれました。

 

配偶者は同席しない

一般にアラブ、イスラム諸国では夫婦単位での社交の機会が少ないようです。これらの国々では相手がキリスト教徒や外国留学を経験したエリート層でもないかぎり、配偶者同伴で食事をすることはあまりありませんでした。その点、日本の男性ビジネスマンにとっては、欧米社会よりも、付き合いが気楽かもしれません。

とにかく、世の中の半分は女性です。とくに、イスラム社会は一見男性中心のようですが、実際に家では妻の力が圧倒的に強く、当然ながら女性ネットワークが果たす役割も非常に大きいようです。もしあなたの配偶者が中東に関心を持ち、アラビア語など現地の言葉が喋れれば、これほど強力な助っ人はいないでしょう。

中東イスラム諸国に比べれば、中国では女性の社会進出が進んでおり、夫婦2人とも仕事を持つケースが一般的です。私個人のケースでも、日本語が話せる中国人学者夫妻の自宅に招待される機会も一度や二度ではありませんでした。この点、中国は、アラブ社会よりも、日本人にとってはるかに付き合いやすい社会だと言えるかもしれません。

 

友情よりも利益を共有

中国社会とアラブ社会は驚くほどよく似ています。どちらも歴史上、人々に優しい権力者の政府に恵まれなかったためか、中国人とアラブ人の人間関係作り、人付き合いのパターンはほぼ同じだと感じました。私自身の個人的経験によれば、中国人とアラブ人の共通点は五つあると思っています。これらを順不同で説明しましょう。

私が考えるアラブと中国の共通点は、どちらも、1)世界が自分を中心に回っていると思っている、2)自分の家族、民族以外の他人を信じない、3)何よりも面子を重んじる、4)援助は「させてやるもの」で、「感謝するもの」ではない、5)都合が悪くなると、外国の陰謀論を持ち出す、といった傾向が顕著なことです。

また、人付き合いのパターンもよく似ています。アラブ諸国や中国では新しい人に会う動機が、欧米諸国と比べ、微妙に違うような気がします。アラブや中国では、政府関係者でもないのに、相手が最初からビジネス機会、留学ビザなど個人的利益の話を切り出してくることも少なくありません。もちろん、欧米社会でも新しく会う人に仕事上の利益を求めることはあるでしょうが、欧米では知らない人々に対する純粋な興味のほうが強いのではないかと思うのです。

私だって、本当に親しくなれば、相手の個人的利益について配慮することもやぶさかではありません。しかし、それはあくまで友人になった後の「最後の話」でしょう。そのような話を最初から持ち出されれば、多くの日本人は思わず引いてしまうのではないでしょうか。ここは微妙ではありますが、非常に大きな違いだと思うのです。

私なら信頼できる相手であることを十分確認してから話すべきと考える「個人的利益」のことを、アラブ人や中国人は、信頼できる相手かどうかを見極めるための手段として比較的早い段階で切り出してきます。この微妙ではありますが、明確に先進国の人々とは異なる感覚には十分注意する必要があります。さもないと、親しくなる前に相手と誤解が生じてしまう可能性すらあるでしょう。

 

最も大切な「普通の人」との交流

この「利益共有願望」の直截さは何も中国、中東の専売特許ではありません。恐らくは、世界の多くの開発途上国において、程度の差はあれ、共通に見られる傾向でしょう。

そうであれば、日本のビジネスパーソンが開発途上国で良い仕事をするためには、この途上国特有の「利益共有」メンタリティを正確に理解し、むしろこれを逆手に取るくらいの強かさが必要かもしれません。

どの開発途上国に行くにしても、最も重要なことは外国語を喋るエリート留学経験者ではなく、ごく普通の人々との付き合いをより重視することです。彼らのような一般庶民たちの本音が聞こえてくるようになれば、その国の政治・経済動向をより正確に分析することができるでしょう。

ここでも外国語学習の重要性、とくに、英語の次の「第二外国語」習得の大切さがあらためて痛感されます。

多くのビジネスパーソンには外国語学習についてジレンマがあるはずです。まず英語を習得してから、第二外国語を伸ばすべきか。それとも、まず英語以外の語学をマスターしてから、英語を磨くべきか。この点については次の第2章で詳しく考えてみるつもりです。

著者紹介

宮家邦彦(みやけ・くにひこ)

外交政策研究所代表

1953年、神奈川県生まれ。東京大学法学部卒業後、外務省に入省。日米安全保障条約課長、在中国大使館公使、中東アフリカ局参事官などを歴任。2005年外務省を退職し、外交政策研究所代表に就任。09年より、キヤノングローバル戦略研究所研究主幹を兼務。著書に、『語られざる中国の結末』(PHP研究所)がある。

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