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薮中三十二が語る 日米同盟のこれから─アメリカに対して主張すべきロジック

薮中三十二(元外務省事務次官)

2016年06月18日 公開 2024年12月16日 更新

薮中三十二が語る 日米同盟のこれから─アメリカに対して主張すべきロジック

PHP新書『世界に負けない日本―国家と日本人が今なすべきこと』より

 

日本外交はどうあるべきか

オバマ大統領のG2構想

 安倍外交が掲げる日米同盟関係の重視は、日本にとって基本的に正しい選択である。日本の周辺には北朝鮮の核脅威があり、また、中国との関係でも海洋での軋轢が増大しており、そうした中で日米同盟関係を強化し、日本の安全を守る政策はきわめて理にかなったものである。

 その一方で、「アメリカは日本を守ってくれるが、日本はアメリカを守らなくてもよいのか? そうしたことで同盟関係を真に機能する関係として維持できるのか?」という問いかけがなされることが多くなった。アメリカの大統領選挙にいても、先に紹介した通りトランプ候補がそのことに言及し、「自分たちは日本を守るが、日本はアメリカを守らない。そんなことはアンフェアーだ」と主張している。

 日本でも安保法制の議論の過程でこのことが取り上げられ、集団的自衛権行使の必要性の一つの理由とされた。

 この関係では、日米同盟が日本にとり重要なことはもちろんであるが、アメリカにとっても重要だということをアメリカに十分に理解させることが大事である。アメリカは引き続き世界に関与するのかどうか、とりわけアジア太平洋に関与し続けるのかどうか? 大国化する中国との関係を、どのようにマネージしようとしているのか? G2、つまり米中関係を強化することで世界の運営をしようとしているのか、それとも中国の大国化を警戒的に見ているのかどうか? アメリカの対外政策に関し、こうした根本的な疑問をアメリカに投げかけてみることも時に必要である。

 オバマ大統領は明らかに一時期、G2、つまり米中による協調路線で世界をマネージできるのではないかと考えた節がある。2009年の訪中の時などはそうした考え方がにじみ出た時期であった。オバマ大統領としては、中国を大国として受け止め、米国が積極的に中国に話しかければ、中国も責任ある大国として協調するだろうと期待していたとみられる。しかし、オバマ大統領の期待は見事に裏切られた。中国は国際問題で協調する姿勢を見せず、自国の利益に合致しない国際ルールは遵守しないという態度をとったのだった。

 このためG2構想は非現実的なものとして頓挫したが、なお、オバマ大統領は中国との協調姿勢は崩していないようにみられる。

 一方で、南シナ海での中国の行動は米国の国防専門家からは極めて危険で、問題のある行動と受け止められている。中国が埋め立て工事を続行し、島を軍事基地化することを放置すれば、米艦船、とりわけ潜水艦などの航行にも深刻な影響が出る事態だからである。オバマ大統領から習近平国家主席への説得も功を奏さず、中国が軍事基地化の方針を撤回しなかったため、ついに米国政府は中国が埋め立てた島の12海里以内に米艦船を航行させ、中国への牽制を行った。しかし、中国が海洋進出を諦めることはなく、引き続き埋め立てた島に滑走路などを建設してゆく可能性が大だと考えられる。

 

アメリカに対して主張すべきこと

 さて、こうした事態を念頭に、アメリカに対し、日米同盟は米国にとっても重要だという認識を持たせなくてはいけない。もちろん、日米同盟が日本の防衛にとり不可欠であり、日本が日米同盟を重視してゆくことは当然だが、そのあまり、常に日本がアメリカに対し恩誼だけを感じ、アメリカに下手に出ることは正しい対応ではない。日米同盟関係がアメリカにとっても有益であることを正確に理解してもらうことは、健全な日米関係を維持する上でも大事なことである。そのためには相手を怒らせずに、上手に日米同盟のアメリカにとっての重要性を指摘し、発信することが大事である。アメリカに遠慮ばかりし、言うことも言わず、「日米同盟は日本にとり大事だ、日本はアメリカとの協力関係を強化する」とだけ言っているのでは、相手は日本の協力を当然視し、何の評価もしないことになる。

 ここでいう、上手に説明する、というのは、まさに本書で繰り返し強調してきた「ロジックのある説明」をするということである。具体的には、1)日米同盟関係は日本の防衛にとり不可欠であり、日本として武力攻撃を受けた際に、米国が防衛してくれるとの約束は極めてありがたい。2)一方、日本は米国に基地を提供しており、基地運営にかかる経費も相当程度、日本が負担している。3)この在日米軍基地は、日本防衛にとり重要だが、同時に米国のアジア太平洋戦略はもちろん、世界的な米国の軍事戦略上も極めて重要な意味を持っている。とりわけ、横須賀の米軍基地は米国が誇る第七艦隊の母港であり、最強空母の維持管理にも大きな役割を果たしている。また、沖縄にある嘉手納基地は米空軍の国外における基地としてもっとも設備が整った基地であり、米空軍の活動を支える最重要基地となっている。4)こうしたことから明らかなことは、日米同盟関係は日米双方にとり重要な役割を担うものであり、お互いにその維持強化に努めるべきである。

 こうした説明を上手に行い、日米同盟関係をバランスのとれた格好で維持管理してゆくことが肝要である。

 

薮中三十二(やぶなか・みとじ)
1948年大阪府生まれ。大阪大学法学部中退。外務省入省。73年コーネル大学卒業。在韓国日本大使館二等書記官、在インドネシア日本大使館一等書記官、北米局第二課長、国際戦略問題研究所主任研究員(在英国)、ジュネーブ国際機関日本政府代表部公使、在シカゴ日本国総領事、アジア大洋州局長、外務審議官(経済・政治担当)、外務事務次官などを経て、現在、立命館大学特別招聘教授、大阪大学特任教授、野村総研顧問。また、グローバル人材を育成する私塾「薮中塾グローバル寺子屋」を主宰している。1989~90年、日米貿易摩擦の解消のための日米構造協議を担当。日米双方が国内の構造問題の是正を目指すことで合意。2003~04年には六カ国協議の日本代表を務め、中国の協力を取り付ける。08年の東シナ海油ガス田共同開発合意にも尽力。著書に『国家の命運』(新潮新書)、『日本の針路』(岩波書店)などがある。

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