松下幸之助『人を活かす経営』~経営の原点を教えてもらった
2016年11月30日 公開 2024年12月16日 更新
『PHPビジネスレビュー松下幸之助塾』2014年11・12月号より
松下幸之助の生誕120年、および没後25年にあたり、PHP研究所ではPHPビジネス新書で「松下幸之助ライブラリー」を刊行中。松下の著書の装いを改め、よりビジネスパーソンが手に取りやすいシリーズにラインナップされ好評を得ている。
本記事はこの機会に、各界で活躍中の方々に松下幸之助の著作や哲学に対する思いを語っていただくシリーズ。今回は、創業まもない若いころに松下の著書から経営の原点を学んだという澤田秀雄氏に、本書の読み方とともに、数々の実績を出し続ける澤田経営の哲学と実践について語っていただいた。
<取材・構成:坂田博史/写真撮影:山口結子>
松下さんは社員をやる気にさせる天才
「いかに人を活かすか」
経営というのは言ってみればこれに尽きるという、経営の原点を私に教えてくれたのが、松下幸之助さんの『人を活かす経営』です。
初めて読んだのは、エイチ・アイ・エスの前身となるインターナショナルツアーズを設立した1980年ごろですから、もう30年以上前になります。起業はしたものの、まだ、お客さまが少なく、時間がありあまるほどあったので、松下幸之助さんや他の経営者が書かれたものから、ランチェスター経営戦略や孫子の兵法に関するものまで、いろいろと読みました。『三国志』や『史記』、『徳川家康』(山岡荘八)、『武田信玄』(新田次郎)などの歴史小説を次々と読破したのもこのころです。まあ、それほど暇だったということです。
当時は、人を使ったことなどありませんでしたから、人の使い方、活かし方など知る由もありません。叱り方もほめ方も分かりませんでした。そんな私でも、すっと理解できたのが本書です。松下幸之助さんという経営者が、商売の局面、局面で、何をどう考え、実際に何をどう行なったのか、それが具体的に述べられているので非常に分かりやすく、しかも実践的です。
学者やコンサルタントが書いた本は理論的ですが、こむずかしい印象があります。松下さんの本は読みやすく、理解しやすいので、当時の私のような駆け出しの経営者や、これから経営者をめざそうという人には、うってつけの内容だと思います。
本書から学んだことはたくさんありますが、やはり最大の学びは「企業は人次第」ということです。社員1人ひとりがやる気を持って仕事に取り組んでいるかどうかで企業の業績は決まります。しかし、人をやる気にさせるというのは簡単なことではありません。
たとえば、私が10人を叱ったとします。3人はナニクソと思って奮起しますが、3人はめげてしまうでしょう。残りの4人は、「また言っているよ」と流してしまう。人はみな感性が違いますから、受け取り方もさまざまです。
ほめたほうが伸びる人もいれば、叱ったほうが伸びる人もいます。収入が増えることを喜ぶ人もいれば、仕事の内容や質が高まることを喜ぶ人もいます。私が右を向けと言っても、一割くらいの人は右を向かない。それが人というものではないでしょうか。
ですから、組織の全員をやる気にさせるというのは、ほんとうにむずかしいことなのですが、松下さんはそれが実にうまい。人と組織をやる気にさせる天才だったのだと思います。その天才が、さまざまな人に対して、どう考え、どう対応したのか。社員1人ひとりのモチベーションを上げたいときにも、組織全体のモチベーションを上げたいときにも、参考になる内容です。
今回読みなおしてみて、「まあ、できているかな」と思える内容は七割ほど。残りの3割は、「まだまだ、できていないな」という反省と、「なるほど、そうなのか」「これは考えなければ」という新しい発見や気づきでした。初めて読んだときは、ほとんどの内容が「なるほど、そうなのか」でしたから、30年以上会社を経営してきて、私も少しは成長したのかなと思います。それでも、まだまだ松下さんの足元にも及びませんが……。
ベテラン経営者になると、すべて分かった気になってしまいますが、本書を読めば、新たな発見や気づき、考えさせられる点が必ずあるはずです。その意味では、ベテラン経営者は、自分ができていること、できていないことをチェックするために読んでみるといいでしょう。経営者も人間ですから、油断や心のスキが生まれることがあります。経営の原点に立ち返るために読むのにも最適です。