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勘を養い、「逆張り」で 世にない商品を開発する~鈴木喬・エステー会長

マネジメント誌「衆知」

2017年09月26日 公開 2024年12月16日 更新

勘を養い、「逆張り」で 世にない商品を開発する~鈴木喬・エステー会長

鈴木喬 エステー会長
すずき・たかし。1935年生まれ。1959年一橋大学商学部卒業後、日本生命保険に入社し、企業保険のトップセールスマンとして活躍。1986年父と兄が創業したエステー化学(現エステー)に入社。企画部長などを経て、1998年代表取締役社長に就任。チーフ・イノベーターとして「消臭ポット」「消臭力」「脱臭炭」「米唐番」など「世にない商品」を開発し、大ヒットをもたらす。ニッチ市場の開拓により、経営苦境に陥っていた同社を再生した。2007年に社長を退任し会長に就任するも、2009年に社長に復帰。2012年からは再び会長職を務める。

 

競合の先を行くための実践経営哲学

消臭芳香剤の「消臭力」「消臭ポット」や脱臭剤「脱臭炭」など、数々のユニークな独自ブランドの大ヒットで、グローバルなニッチ市場のトップメーカーとなったエステー。革新的な「世にない商品」は、いかにして生み出されたのか。常識を破り、競合他社の先を行く「読み」とは。社長時代にチーフ・イノベーターとして開発の指揮をとった鈴木喬会長に、勝つための実践哲学をうかがった。

取材・構成:坂田博史
写真撮影:長谷川博一

※本記事はマネジメント誌『衆知』特集「先見力を磨く」より、その一部を抜粋編集したものです。
 

世の中にないヒット商品を「逆張り」で生み出す

「消臭ポット」「消臭力」「脱臭炭」「米唐番」など、私がチーフ・イノベーターとして開発したヒット商品の多くは、これまで世の中になかったものだと自負しています。

最近の新商品「脱臭炭 ニオイとり紙」も、今までにありそうでなかった商品といえるでしょう。炭を配合した紙が臭いを吸着するので、丸めて靴の中に入れてもいいですし、生ごみに入れると嫌な臭いが消えます。これ以外にも、いろいろな用途で使えるのではないかと、現在、用途開発を行なっており、それ次第では、大ヒットになるかもしれないと期待しています。

よく、ヒット商品を生み出すにはどうすればいいのかと聞かれますが、やはり改良や改善といった従来の延長線上でいくら考えてもダメでしょうね。周囲が反対するぐらいの独創的な発想がないと、常識を変える新しい価値は生まれません。

それには、結局、自分の頭で考えるしかないと思います。ところが最近は、自分の頭で考えない人が増えているのではないでしょうか。どこかからコピー&ペーストしてきたようなアイデアでは、競争相手と同じなので、勝てるわけがありません。もう一手、二手、三手先を読んで、競争相手がやらないことを考えないといけないのです。

そもそも、みんなが同じ方向に向かう「順張り」の戦いでは、基本的に強いものが勝ちます。当社の場合、「順張り」の状況では国内外の最大手には勝てません。ですから、大量生産大量販売のマスマーケットには行かず、戦いの場を選び、敵がいない、少ないところで勝負する「逆張り」の戦略を取っています。

逆張りは、トップが決断しなければできません。みんながやめろと言って反対することをやるのが、トップの仕事です。

もちろん、リスクも大きいので、ここぞという時を見極めてやるべきでしょう。自分の首をかけてもいいと思えるような勝負の時こそやるべきです。そして、やると決めたら、絶対に成功させるという覚悟が絶対不可欠です。
 

人間心理を読んでしたたかに

トップの仕事は決断業です。上に立つ人は、いろいろなことを自分の頭で考えないといけません。そのためには、一人になる時間が大切になります。時には山の中にでも行って、じっくり考える時間をつくることも重要です。

こうしたゆとりの時間は、上になればなるほど大事になります。時間をつくるためには、常に現在の仕事を整理する習慣を身につける必要があるでしょう。

一方で、トップの決断も実行されなくては意味がありませんので、下の人はフォロワーシップをもって、一生懸命やってほしい。与えられた仕事を徹底的に自分でやり切ることが、自身の成長につながります。

ただ、最近は優秀な人ほど職場に適応できず、メンタル面が弱い人が多い印象があります。理論的で頭でっかちな人ほど、一つのミスや失敗でしょげて下を向いてしまう。これは新入社員に限ったことではなく、中堅社員にもいます。

そんな人に対しては、「もう少しゴマをすったらどうだ」と言っています。「ネクタイが素敵ですね」でも何でもいいので、褒めまくる。斜に構えて、「俺はゴマなんかすらない」と言う人にも、「一〇〇日間ゴマすってみろ。相手がどんな反応をするか、どんな変化があるか、面白いじゃないか」とすすめています(笑)。

ゴマすりも、人間関係の潤滑油の一つ。そう考えてやるくらいの“したたかさ”が必要なのではないでしょうか。

近頃心配なのは、経営者の中にも人間を知らない人が多いことです。ケンカもしない、できない。だから弱い。国内で勝っている企業でも、海外に行くと負けてしまうのはそのためです。

その点、松下幸之助さんは人間心理がよくわかっていて、しかも清濁併せ吞むほどの器量をお持ちだったと思います。先日、たまたま有名な「熱海会談」の様子をテレビで見たのですが、販売店の人に言いたいことをさんざん言わせておいて、最後にみずから頭を下げてお願いする。人情の機微がわかっているなあと感心するとともに、相当な「人たらし」だなと思いました(笑)。

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