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チベット亡命政権の命運~「砂にまぶして」滅ぼしてしまう中国の手法

櫻井よしこ(ジャーナリスト)

2018年01月22日 公開 2022年12月21日 更新

チベット亡命政権の命運~「砂にまぶして」滅ぼしてしまう中国の手法


<<本稿は、櫻井よしこ著『チベット 自由への闘い』(PHP新書)より一部を抜粋編集したものです。 >>
 

チベット 自由への闘い 「砂にまぶして」すべてを食いつくす

中国共産党の侵略は、一定のパターンで行なわれる。侵略は、噓と猫なで声から始まる。目指すべき地に足を踏み入れるや、獅子身中の虫のように一挙に広がる。取れるものは取り、滅ぼせるものは滅ぼしていく。

彼らは、誰を一番先に倒せばいいかを、よく知っている。まず、その社会のリーダー層を一網打尽にすることだ。リーダーを失った民衆は黙ってついてくることを見越している。中国共産党がダライ・ラマ法王を滅ぼしたかったのも、それゆえだ。チベット仏教の聖なる求心力である法王さえいなくなれば、チベット人社会は容易に崩壊すると見ているのである。

中国共産党のもう一つのやり方は、「砂にまぶす」手法である。たとえば内モンゴルの地では、モンゴル民族400万人に対し、漢民族は2000万人もいる。モンゴル民族の5倍もの漢民族が植民してきたのだ。これでは経済も教育も文化も言葉も、完全に漢民族の社会になり、モンゴル人は事実上、抹殺されていく。

日本に置き換えて考えてみよう。現在の日本で、まず皇室が何らかの手段で倒され、神社や寺院などの多くが破壊され、日本人の5倍の6億人の漢民族が入植してきたら、日本社会はどうなるか。日本人にとって、想像もしたくない凄惨な状況が生まれ、もはやこの国は、日本ではありえないだろう。

中国共産党の支配下に置かれた周辺民族は、現実にそのような悲劇に見舞われている。

チベットではチベット仏教が厳しく弾圧されている。東トルキスタンではイスラム教がテロと結びつけられ、激しい迫害が続いている。草原の民であった内モンゴルのモンゴル人たちは、草原を奪われ、漢民族のなかに埋没させられようとしている。民族の誇りが根こそぎ奪われ、それに抵抗する者は圧倒的な力で物理的に粛清・鎮圧されていく。

他文明の誇りを地に叩き落とし、少数民族を数倍の漢民族の砂漠に放り込み、「砂にまぶして」滅ぼしてしまう中国の手法はまさに悪魔的だ。
 

アメリカは中国共産党の真の怖さを理解しているか

中国共産党に対して、アメリカの対応は必ずしも一貫していない。

2017年2月13日、私は一年ぶりにロブサン・センゲ首相と語り合った。そのとき、米中関係、大国同士の思惑のなかで、力の弱い民族がどのように翻弄されるか、私は初めてその冷厳な話を聞いた。かつてアメリカは、チベット人を沖縄の嘉手納基地はじめ自軍の基地で訓練し、中国共産党の人民解放軍と戦わせるためにチベットの地に送り込んでいたというのだ。

アメリカは、チベットを侵略した中国と朝鮮戦争で戦い、ベトナム戦争でも戦った。現在も世界の覇権をめぐって争いつづけている。表面に現われずとも水面下の争いは様々な形で続いている。

しかし、大国同士、利害が一致すれば、それまでの争いは直ちにやめ、何食わぬ顔で握手する。そんなことが起きたのが1971年だった。ニクソン政権の国務長官、キッシンジャー氏の訪中と、それに続くニクソン大統領の訪中によって、アメリカのチベット政策は一変し、チベットへの支援が打ち切られたというのである。

当時のアメリカの最大の敵、ソ連を孤立させるために、アメリカは中国共産党と手を結んだ。その結果、確かにソ連は崩壊に至ったが、一方で中国共産党は、改革開放路線の成功もあってますます強大になり、現状の危機を招くこととなった。

中国は、もはや軽々に対処できる相手ではない。結果として、チベットや東トルキスタンをはじめ、中国の周辺民族への迫害は続き、悲劇が繰り返されている。その意味では、アメリカ大統領がいまなおダライ・ラマ法王に面会するのは、罪滅ぼしのためかとさえ思う。

アメリカは、中国共産党の真の怖さ、彼らの実態、正体を、とことん理解していないのではないかとも思う。清朝時代の中国に、アメリカから多くの宣教師が渡った。彼らは宣教師でありながら、様々な貿易に手を染めて巨万の富を築き、幅広い、層の厚い人脈を築いた。アメリカにとって中国は、往時もいまも、魅惑的なビジネスの場でありつづけている。

アメリカの一部の人びとは常に、より深いシンパシーを、日本よりも中国に感じてきたと思う。現在でも、それは基本的に変わらないのではないか。

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チベット亡命政権の命運はチベット民族の命運

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