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脳は一瞬で「好き」「嫌い」を判断する!

長谷川嘉哉(医学博士)

2018年04月24日 公開 2023年09月08日 更新

「不快」を「快」に変える「荒療治」とは?

 かといって、相手が優しくしてくれるのを待つしか方法がないわけではありません。自分の力で「不快→快」へと振り子を動かすことは可能です。

私は以前、「自分の人生の中で、どうしても許せない人に会いに行く」という荒療治を実践したことがあります。相手はかつての上司で、どうしてもそりが合わず、その人のもとで働いている頃は毎日が苦痛でした。

しかしこの記憶を引きずったままでは、私の扁桃核が刺激されるたびに、不快な感情にとらわれ続けることになります。そこで思い切ってその上司に会いに行き、「昔の自分があなたに取った態度を謝りたい」と伝えたのです。そして相手から「君も頑張りなさい」という言葉をもらった瞬間、「自分が生きていくうえで敵はいなくなった」と晴れ晴れした気持ちになりました。

このように、「不快」に立ち向かうことは、強烈な「快」を生み出す最も効果的な方法であり、自分の負の感情をうまくコントロールする手段でもあることを知っておくとよいでしょう。

 

見た目の自己演出は脳科学的にも効果あり

脳の働きを理解すれば、他人が自分に抱く感情をコントロールすることも可能になります。

脳が「快・不快」を判断する材料は視覚・聴覚・嗅覚などの「五感」です。よって、見た目や話し方を変えれば、自分の印象も変えられます。心理学でも、表情や服装、声のトーンなどで自分を演出する方法が研究されていますが、その手法は脳科学の見地からも正しいと言えます。

とくに視覚的な情報はインパクトが大きいので、相手に安心感を与えたいなら、なるべく扁桃核を刺激しないビジュアルを心がけるべきです。

 たとえば、ピンクのネクタイや太いストライプのスーツなどは、人によって好き嫌いが分かれます。これは要するに扁桃核を刺激しやすいアイテムだということ。一方、ブルーのネクタイや落ち着いた無地のスーツを嫌う人はあまりいませんから、こちらは扁桃核を刺激しにくいアイテムということです。よって、お堅い業界の人や相手に警戒感を与えたくない場面では後者を選んだほうが無難。反対に、プレゼンなどで他の人と差をつけて目立ちたいなら、前者を身につければ効果的でしょう。

年齢を重ねると身の回りのことに無頓着になり、「ネクタイやスーツの色なんて何でもいい」と考える人が出てきます。しかしそれは、思考力や創造性を担う脳の「前頭前野」の機能が低下した証拠です。

また、前頭前野の機能が低下すると、人は怒りっぽくなります。論理的思考力が落ちて理性的な判断ができず、感情がコントロールできなくなるのです。

脳の機能を活性化させるには、扁桃核を刺激し、前頭前野にあるワーキングメモリがフル稼働する環境を意識的に作る必要があります。私がお勧めしているのは、年齢の離れた友人を作ること。会社の同僚や学生時代の友人との交流では得られない新しい価値観をもたらし、好奇心を刺激してくれる相手が多いほど、脳の機能は鍛えられます。

「最近感情的になりやすい」という自覚がある人は、ぜひ脳の働きを理解し、脳に良い習慣や行動を心がけてください。

 

【コラム】感情を司る「扁桃核」の働き

人間の感情をコントロールしているのが、脳の扁桃核だ。脳に入ってきた情報はすべて記憶されるわけではなく、海馬が選別を行なっているが、この時に扁桃核の刺激を伴う情報が「重要なもの」と判断される。例えば、大変さや困難、それを乗り越えて達成した体験などは扁桃核を刺激する情報となり、大脳皮質に長期記憶として保存される。そして再び扁桃核が刺激される場面に出会うと、大脳皮質に保存されている記憶と照らし合わせて、「快・不快」を決める仕組みだ。
つまり、人間の感情はその場の情報から生まれるのではなく、過去の記憶の蓄積で決定されるということ。多くの男性が無意識のうちに自分の母親に似た女性を結婚相手に選ぶのは、幼少期に母親が絶対的な安心を与えてくれた記憶が脳に保存され、そのデータに近い女性に出会うと「快」と判断するからだとされる。このように、人間の感情と過去の体験は切っても切れない関係にある。

 

《『THE21』2018年4月号より》

著者紹介

長谷川嘉哉(はせがわ・よしや)

医療法人ブレイングループ理事長/医学博士

1966年、愛知県生まれ。名古屋市立大学医学部卒業。日本神経学会専門医、日本内科学会専門医、日本老年病学会専門医。毎月1,000人の認知症患者を診察する日本有数の神経内科、認知症の専門医。2000年、岐阜県土岐市に認知症専門外来クリニックを開業。著書に、ベストセラー『親ゆびを刺激すると脳がたちまち若返りだす!』(サンマーク出版)、最新刊『一生使える脳』(PHP新書)などがある。
※『一生使える脳』書影入る

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