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プロ野球界のさらなる繁栄のために~白井一幸・プロ野球コーチ

マネジメント誌「衆知」

2018年04月24日 公開 2018年04月24日 更新

プロ野球 横浜スタジアム
 

球界の発展に不可欠な引退後の選手を支える仕組み

プロ野球の繁栄を考える時、もう一つ大切だと思うのは、プロ野球選手という職業が魅力のあるものでなければならないということです。

プロ野球選手という職業を、子供たちが将来就きたいと憧れる対象にするためには何が必要なのか。現役選手やチームの価値を高めることももちろん大切ですが、現役を引退した元選手たちのセカンドキャリアを支える仕組みをつくることだと思うのです。これは、私が元選手として、現役選手のために欠かせないと痛感していることです。

プロ野球選手は個人事業主であり、国民年金に加入しています。かつては年金制度があったものの、資金難を理由に2011(平成23)年に解散しました。私もずっと保険料を納めていましたが、まだ若かったので一時金としてわずかな額をもらっただけです。

片やアメリカはというと、立派な年金制度があります。メジャーに一日でも在籍すれば、満額ではないものの年金を受け取る権利が得られ、メジャーに10年在籍すれば満額の年間約2000万円という年金が受け取れます。6年の在籍でもその半額が60歳になるともらえ、その年齢まで待てないという人には、額を減らして前倒しで支給されます。

医療保険の例からもわかるように、日米では福祉に関する価値観が異なるため、プロ野球の年金も一概に比較はできません。それでも、日本の仕組みはあまりにもお粗末です。

例えば、元プロ野球選手が地元の子供たちに野球を教えるというイベントはアメリカにもありますが、元選手たちは生活にゆとりがあるため、野球を教えるのもボランティアです。すると、子供やその親たちからは、「社会にしっかり貢献してくれている」「やっぱり地元のヒーローだ」と評価されます。

それに対し日本では、子供への野球教室でも、多くの場合は有料にせざるをえません。元選手たちは引退後の生活が保障されていないため、報酬を支払う必要があるからです。事情を知らない人は、「現役の頃あんなに高給取りだったのに、子供相手にも金を取るのか」と思うでしょうが、仕方ありません。

MLBの場合、選手会の力が強く、年金基金も選手本人は掛け金を一切負担せず、放映権料やライセンス収入から賄われます。日本でアメリカと全く同じ仕組みをつくるのは難しいとしても、日本も球界全体としてきちんとした年金制度を確立し、元選手たちのセカンドキャリアを安定させ、現役引退後に社会貢献ができるようにしなくてはいけないと思います。

そして、球界全体の繁栄を考えた場合、選手の育成も重要なテーマで、日本ではプロサッカーリーグであるJリーグがお手本になると思います。Jリーグといえば、地域に芝生の広場やスポーツ施設を整備したり、サッカー以外のスポーツクラブをつくったりすることで、サッカーを観るだけでなく、好きなスポーツを楽しめる環境を整える「百年構想」という長期ビジョンが有名です。また、Jリーグの各クラブには高校生世代以下を育成する組織を持つことが義務づけられています。そのためプロとアマチュアが一緒に練習するのも珍しくありません。その取り組みは、計画的で多様です。

それに対し、野球にはプロとアマの間に厳然たる壁が存在し、例えば現役のプロ野球選手や指導者は、自分の子供が高校野球をやっていても、公の場では指導することもできません。もちろん私も元高校球児ですから、高校野球の持つ意義や素晴らしさは理解しています。けれど、今後の球界のことを考えると、やはり選手育成の仕組みも、もっと柔軟で一貫性のあるものに変えていく必要があるように思います。

※本記事は、マネジメント誌「衆知」連載「白井一幸の組織改革と人材育成はプロ野球に学べ!(最終回)」より、一部を抜粋編集したものです。

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