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天皇は国家元首?~池上彰さんに、いまさら聞けない「天皇」の話を聞いてみた

2018年07月25日 公開

池上彰(ジャーナリスト)

池上彰
 

天皇の地位が大きく変化した日本国憲法

1946年11月3日に日本国憲法が公布され、翌47年5月3日から施行されることになりました。

日本国憲法を見ると、最初に前文があり、第一章は「天皇」から始まります。「あれっ? 新しい憲法なのに、明治憲法と同じように最初が天皇についての条文なの?」と思う人もいるかもしれません。

その理由は、今の憲法が明治憲法の改正として制定されたからです。明治憲法は天皇の地位から条文が始まっています。そのため、明治憲法の改正である日本国憲法も、同じように天皇に関する条文から始まっているのです。

では、第一条を読んでみましょう。

第一条  天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。

明治憲法と日本国憲法では、天皇の地位が大きく変化しています。明治憲法では、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とあり、天皇の存在は、神聖にして絶対不可侵のものでした。なぜなら、天皇は万世一系の現人神であって、天照大神の意思に基づいて日本を治めることとされていたからです。

それに対して日本国憲法では、天皇の地位は、神の子孫だからではなく、「日本国民の総意」に基づくものだと定められています。つまり国民みんなが支持しているから、天皇という地位にいるということです。

この条文で、一番難しいのは「象徴」の意味です。天皇が日本国と日本国民の「象徴」であるとは、どういうことでしょうか。

1947年に、当時の文部省が発行した『あたらしい憲法のはなし』という教科書では、こういうふうに説明されています。

〈憲法は、天皇陛下を、『象徴』としてゆくことにきめました。みなさんは、この象徴ということを、はっきり知らなければなりません。日の丸の國旗を見れば、日本の國をおもいだすでしょう。國旗が國の代わりになって、國をあらわすからです。みなさんの学校の記章を見れば、どこの学校の生徒かがわかるでしょう。記章が学校の代わりになって、学校をあらわすからです。いまこゝに何か眼に見えるものがあって、ほかの眼に見えないものの代わりになって、それをあらわすときに、これを『象徴』ということばでいいあらわすのです。こんどの憲法の第一條は、天皇陛下を『日本國の象徴』としているのです。つまり天皇陛下は、日本の國をあらわされるお方ということであります〉

象徴は、英語では「シンボル」ですね。「鳩は平和のシンボル」というように、鳩が平和を表している。それと同じように、天皇は日本のシンボルなんだと、この教科書は説明しているわけです。

ただ、当の天皇自身からすると、こういう説明がわかったからといって、天皇がどのように行動すればいいのかまではわかりませんよね。現在の天皇陛下は、即位されてから現在まで、ずっと象徴天皇のあり方を考えて、天皇のお務めを果たされてきました。おそらく日本で誰よりも、天皇陛下が「象徴」の意味を考えてこられたに違いありません。
 

天皇は日本の「国家元首」となるのか?

天皇の地位をめぐっては、天皇は果たして「元首」かどうかという議論があります。そうなると、日本の国家元首は誰になるのでしょうか。実は日本国憲法には、国家元首の規定自体がありません。だから、「今の日本での国家元首は誰か」という試験問題が出たら「明文規定はない」が正解になります。

「元首」というのは、外国に対して国家を代表する人のことです。たとえば、現在のアメリカの国家元首はトランプ大統領であり、イギリスの国家元首はエリザベス女王です。

日本の場合、天皇は「国民統合の象徴」だから日本を代表する人であり、当然のことながら元首である、という考え方もあります。2012年に自由民主党が提出した日本国憲法改正草案では、「天皇は、日本国の元首であり」と、天皇が元首であることを明記しています。

その一方で、政治のトップこそが国家の代表だから総理大臣が元首である、という考え方もあります。ですが、その総理大臣を任命するのは天皇です。任命するのは、総理大臣より上の立場の者と考えれば、天皇が国家元首であることを示している、という考え方もできます。

このように、元首に対する考え方の違いもあって、天皇が日本の国家元首であるかどうかについては、専門家の間で意見が分かれているのが現状です。

ただ、海外からは、天皇は「日本の国家元首」としての扱いを受けています。たとえば「大使の信任状の捧呈」です。自国の国家元首から派遣された大使は、「この者を大使として認めてください」という信任状を相手国の国家元首に提出します。日本に来た大使は、それを天皇に提出します。

ちなみに、新しい大使が日本に来ると、その国の大使館は宮内庁に連絡をして、「天皇陛下に信任状の捧呈をしたいんですが、いつ行けばいいでしょうか」と都合を聞きます。

宮内庁は「では、天皇のスケジュールが空いているこの日に来てください」と返事をします。実はこのとき、宮内庁から必ず相手の大使館に聞く質問があります。「お迎えに上がります。車にしますか、馬車にしますか」と尋ねるのです。尋ねられた側は、ほぼ100パーセント、「馬車でお願いします」と答えるんですね。

だから、新しい大使は、東京駅の丸の内口から、馬車でトコトコトコトコ、皇居に向かうのです。そのために宮内庁には「車馬課」という部署があります。この部署では、天皇を送り迎えする車とともに、そうやって新しい大使を迎える馬車も持っている。そのために、皇居の中で馬も飼って訓練しています。この応対を考えると、外国からは、天皇が国家元首と考えられていることがよくわかります。

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