天皇は国家元首?~池上彰さんに、いまさら聞けない「天皇」の話を聞いてみた
2018年07月25日 公開 2018年07月26日 更新
世襲のあり方は皇室典範に定められている
それでは、日本国憲法の第二条を読んでみましょう。
「皇室典範」とは、天皇、皇室について定めた法規のことです。もともと旧皇室典範は、1889年2月11日に、大日本帝国憲法と共に公布されました。大日本帝国憲法では、「天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」とあり、天皇は国家の統治者で、戦前のほうが大きな存在でした。
でも、不思議に思いませんか? 皇室典範は法律なのに、「刑法」「民法」「商法」などのように、「法」の文字が入っていません。これは、戦前の旧皇室典範が、法律より上位にある決まりと位置づけられていたからです。つまり、戦前は、大日本帝国憲法と旧皇室典範があり、その下にさまざまな法律がつくられたのです。
だから、法律は議会でつくることができるし、議会で変えることができるけれど、皇室典範は議会で変えることはできませんでした。国民や議会には手を触れさせない、というのが皇室典範だったわけです。
それが戦後になると、憲法と共に皇室典範も民主的なものになりました。憲法で天皇は「国民統合の象徴」とされたのです。その結果、皇室典範も普通の法律と同じ位置づけになりました。ただし、名前をそのまま残してしまったので、法律ではあるけれど、「法」という字が入っていないということです。
そうなると、現在の皇室典範は法律ですから、議会で変えることはできます。憲法では、皇位は世襲であるという大原則だけが示されていて、具体的な世襲のあり方は、議会が決めた皇室典範に基づくと定めています。
では、皇室典範にはどのように書かれているかというと、皇室典範第一条には「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」とあります。つまり、天皇は男性しかなれないと定められている。でも、これは法律ですから、国会で皇室典範を改正すれば、女性天皇も可能になります。
天皇は政治的な力を与えられていない
日本国憲法の第三条以降では、主に天皇の国事行為についての決まりが記されています。
その一番のポイントは、天皇には、実際の政治をする力は与えられていない、ということです。
天皇は国会を召集したり、衆議院を解散したり、大臣や最高裁判所の裁判官を任命したりしますが、これらはすべて「内閣の助言と承認」を必要とし、「内閣が、その責任を負ふ」と定められています。つまり、実際には国会や内閣が決めるけれど、形式的に天皇が行うことになっているのですね。
日本国憲法では、天皇の国事行為として次の13項目を挙げています。
こう見ると、天皇の、国にかかわる仕事はけっこうあります。でもこれらは、自分の判断でできるわけではありません。天皇は、自らの意思や判断で実際の政治にかかわることはできないけれど、大事な国事行為を形式的に行うことで、国民がまとまるための大事な役割を果たしている、ということです。
※本記事は、PHP研究所刊『池上彰の「天皇とは何ですか?」』より、一部を抜粋編集したものです。