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生き方

シンプルなデザインは、空間や環境が導く最適解から生まれる

深澤直人(プロダクトデザイナー)

2018年08月16日 公開 2021年05月11日 更新

 

実は20代の頃、造形的で複雑なデザインを好んだ

深澤さんはシンプルなデザインですねとよく言われます。ミニマリズムとか、シンプリシティとか。これは簡単な話ではなくて、思想的なことですよね。実は20代のころはそうでもなかったんです、造形的なものが好きで。

それが、あるときから、作者の匂いがつくこと自体が嫌だなと思うようになった。

民藝がそうなんですけど、民藝って無我なんですよね。ただ「作り手」「担当者」としてしか存在していなくて、デザインしない、デザインしようと思っていない。

たとえば竹の籠だけ作る人がいて、黙々とその機能に合ったものを作り続けていたものが、今は美しいとされています。

柳宗悦がそれを「民藝」と呼んだわけですが、それと似ていて、別にする必要がなければしなくていい、というのがデザインの一歩目だと僕は思っています。それを何かしようと思っちゃっていることがすでに余計かもしれない。

何かを作るときに大事なのは、その存在が置かれるであろう空間や環境や状況から割り出されていく必然的な姿が見える、つまり最適解がわかるということ。

シンプルな形をやろうとしてるわけではなく、「これが最適の解答の線です」ということをやろうとしているんです。

それはたとえば「環境から浮いていない」ということで、部屋に置いているフロアライトに存在感がありすぎると落ち着かないですよね。

存在感のないすごい存在みたいな感じを作りたい。それを人はしばしばシンプルと呼んでいるんじゃないでしょうか。

 

人は歩くときに靴の存在を意識しない。良いデザインは違和感を抱かせない

よく、いろんなブランドや世界の異なる文化圏でどうやってデザインを分けているんですかと質問をされます。僕はブロスを作っていると説明するんですが、ブロスっていうのはスープ、出汁ですね。そこにあまり自分の味つけをしないっていう。

ベースとなる出汁をよくとっておけば、味つけはその時々によって変えられる。味つけするのはブランド側だったり、その文化だったりするわけです。

無印良品の仕事をたくさんしているので、「MUJIのデザイナー」みたいにも言われるんですけど、ジョークで「MUJIはスープだけで、味をつけない」と言うと、みんなすごく納得してくれる(笑)。これも自分を説明するいい比喩だなあと思っています。

もう一つ、自分を説明するキーワードに「ウォームクールグレー」というものがあります。冷たくてあったかいグレーが好きなんです。

これは、PANTONEの色見本に「クールグレー」というページがあるんですけど、クールとはいえ妙にあたたかく感じられて、僕からしたら「あたたかいクールグレー」というのが、自分の目指す線だなと。

ゆるくならないで、ちゃんとしてるんだけど、あたたかみはあることが意外と重要かなと思うんです。

「いいもの」というのは、たぶんみんなが一緒に感じられるものなんだと思います。デザイナーだからいいものがわかって、デザイナーじゃない人にはわからないというものではない。

いいものであればみんながいいなって言うと思うし、その答えが出ているかどうかということで、もしそこであまりうまくいっていないってことは、デザインがあまりよくないんだと思います。

もう一つは、材料となるものの性質や適材適所かどうか、どのような力が施されているかとか、そういうことがうまくいっていない。

人間って、歩くときに靴のこと考えてないですよね。無意識の状態でスムースに生きてると引っかかりのない状態で、だから「いいデザイン」ってあまり引っかからないんですよ。違和感は心に引っかかりやすい。

それで思い出したエピソードがあって、小さい頃、オレンジ色がすごく好きで、オレンジ色のクレヨンで紙を塗った絵が出てきたんです。

紙の表面が凸凹してたんで、それだと印刷したポスターみたいなのと違うっていう感じがあったんでしょうね、凸凹の跡がわからなくなるくらい、もうベタベタに塗りつぶしてた。

自分は子供のころからそんなんだったんだなと思いました(笑)。

 

*本記事は2018年6月にアートブック・ユリーカhttp://www.artbook-eureka.com/で行なわれたトークイベントの内容から抜粋し編集したものです

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