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生き方

末期ガンの写真家が今、幼い息子に伝えておきたい「孤独の味わい」【幡野広志】

幡野広志(写真家)

2018年10月11日 公開 2018年12月04日 更新

 

テクニックだけで撮った写真は人の心を打たない

ラグ・ライがもうひとつ教えてくれたのは、写真はテクニックではないということ。

技術が高くて構図がいい写真なら、日本人のほうが得意だろう。カメラマンでない人も一眼レフを普通に持っている日本は、カメラが好きな人がとても多い。

しかし、「日本の写真は、実はレベルがかなり低いのではないか。みんながカメラを持っていない貧しい国の人の写真のほうが、はるかに優れているのではないか」 強烈にそう感じて、考えた。その理由はおそらく、経験なのではないかと。

貧しい国、過酷な国で生きるという「経験」が、写真に生きているのだと思った。

それから僕は、「わかる人にはわかる」と、写真家仲間で内輪受けするような「いい写真」なんて撮っても仕方がないと考えるようになった。

テクニックで撮った写真は見る人の心を打たないし、井の中の蛙にはなりたくない。写真がテクニックでないのなら、僕自身を磨いて、自信をつけなければいけないとも、強く感じた。

 

人の目を気にせず、自分の経験をしてほしい。それがきっと、自信につながる。

日本の報道カメラマンがフラッシュをたくのは現場が暗いからではなく、みんながフラッシュをたくからだ。

たぶん、上司やまわりの人の目を気にしているからだろう。構図など「いい写真」の定義にこだわる人が多いのも、人の目を気にするからだ。
観光客の写真がつまらないのは、他の人の写真を、ただなぞっているからだ。

人の目を意識するという癖は、なんて自分を狭くしてしまうことだろう。

息子に写真家を目指してほしいわけではないが、これだけは知ってほしい。人の目を気にせず、自分の経験をしたほうがいいと。それが自信につながると。

自分に自信がある面白い人になれれば、近所にいても面白いものを見つけて、面白い写真が撮れるだろう。
おまけに今の僕には息子という、面白いことを見つける最高のセンサーがある。

タンポポの綿毛を心から面白がって、何度もフーッと吹く息子。エサを運ぶアリを、いつまでも見ている息子。子どもにとっては、保育園に行く道のりですら旅なのだ。

息子にいろいろ教えるつもりが、僕はたくさんのことを息子に教えてもらっている。


※本稿は幡野広志 著『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)より一部を抜粋し、編集したものです

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