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生き方

「余命3年宣告」で分かった"お金 vs. 時間"の勝者【幡野広志】

幡野広志(写真家)

2018年11月01日 公開 2018年12月17日 更新

価値観は自分が起こした行動と、経験したことで広がる

写真:幡野広志

息子が18歳になったら、100万円をあげようと決めている。

100万円という数字にこだわりはないが、そのころの物価で30代公務員の給料3カ月ぶんを1回でぽんとあげて、夏休みなど一定の期間で自由に使わせる。

若いうちに時間とお金があると、何かしら行動するだろうから、やりたいことが見つかりやすくなる。息子が生まれてすぐに、そのための貯金も始めている。

100万円で何をしてもいいが、僕自身、これまで旅で得たことが多いので、できれば旅に使ってほしい。
旅といっても友だちみんなとハワイとか、観光名所をガイドと一緒にバスで巡るヨーロッパ・ツアーとかじゃなく、絶対に一人旅。

航空券、宿の手配をすべて自分でやり、バカな失敗をしでかしたり、次々と発生するいろんなトラブルになんとか自力で対処すれば、いい経験になるだろう。

日本に住んで日本だけを見ていると、価値観が日本だけになってしまう。いろいろな国を見て、世界は広いということを知れば、小さい悩みはどうでもよくなるはずだ。
別に海外じゃなくてもいい。日本にも観光地ではない離島など、想像を超える場所がある。

たとえば僕なら、バックパックで南極に行ってキャンプをしながら、携帯の電波も届かないところで孤独にひたってみたい。孤独が好きなのと同じくらい、いろんな人と交流するのも好きなので、それからまた違う国に行ってみたい。

価値観は、自分がどれだけ行動し、経験したかに応じて広がる。
たくさん行動し、たくさん経験し、どんどん価値観を広げてほしい。

映画を見たり、マンガや本を読んだり、スマホゲームをしたりするのも行動だが、経験と呼べるほど大きなものは、旅や恋だと思う。

恋は1億円あってもどうにもならないが、お金でできる経験もたくさんあるから、その部分は親である僕がヘルプしたい。

バイトをして必要なお金を貯めてから行動するのではあまりに効率が悪いから、先に100万円を渡そうということだ。

若いうちの経験ほどその後の人生への影響力が大きいし、青春なんて特に短いから。

 

お金を稼ぐよりも貴重な、その時間

写真:幡野広志

こういう話をすると、僕が恵まれた家庭で育ったように誤解されるかもしれない。

現実はまったく逆で、高校生のときはほんの少しのお金を稼ぐために、つまらないアルバイトで夏休みをつぶしていた。

その経験で価値観が広がったかといえば、それもなかった。

親の人生で「あまりにも非効率的だ」と判明したことを、わざわざ息子に繰り返させる必要はない。

10代のひと夏を使って10万円を稼ぐより、100万円を、ぽんと親にもらっていろんな経験をするほうが、時間もお金も生きる。

また、40歳になった息子に100万円をあげても、生活費やちょっとした贅沢で一瞬で消えてしまうだろうけれど、18歳ならそのお金の価値は何倍にもなる。

40歳の1カ月と18歳の1カ月を比べたら、やはり18歳のほうが価値はあると思う。

「若いうちのほうが、いろいろできる」というのは本当だ。

若ければいろんな失敗は大目に見てもらえるし、大人になると、確実に時間がなくなる。

それなのに僕は、時間は無限で、体力も健康も永遠に続くと思っていた。いつか消えてしまうと知らなかったから、貴重な若いときを、夜中まで働いたりして無駄に消費してしまった。

息子には教えておきたい。

若いときの大事な時間を、アルバイトなんかで安売りするなと。
そして、有限だと知ってこそ、時間にも若さにも価値が出ると。

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「苦労」を販売する大人がつくったキャッチコピー

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