“信用されない人”が見落としている「意見と事実の違い」
2019年03月20日 公開 2024年12月16日 更新
<<元カリスマ予備校講師の犬塚壮志氏は、人気講師であり続けるために「生徒から信用される」話し方を常々研究してきた。その経験から、他人から信用を得るためには「意見」「事実」の違いの重要性に気がついたという。
本稿では、犬塚氏が事実と意見の違いを語りつつ、信用されるための「話し方」のコツを披露する。>>
「合格する気がしない」と弱音をはく予備校生は本当に信用できるのか?
「先生、もうダメです…。今年のS大の医学部、倍率も高いし、私の偏差値も全然届いてないし。受かる気がしないんです」
これは、私が予備校に勤めていたときのある日、受け持っていたクラスの生徒から伝えられたことです。
どうやら、その子の第一志望の大学の志願者倍率が発表され、その数字を見て不安になってしまい、私のところに相談に来たようです。
実は、私はこういった生徒の話は、基本的に信用しません。こういうことを言うと、「なんて冷たい人間だ」、そう思われる方もいるかもしれません。
ただ、実際に、生徒の言葉をそのまま受け取って信用してしまうことのほうがリスクになると私は考えているのです。
なぜなら、生徒の話していることが「事実」でない可能性が大いにあるからです。
どういうことかというと、冒頭の生徒の言葉の中に「倍率が高い」とありますが、実際の数値として何倍なのか? 5倍なのか? 10倍なのか? 何をもってして高いと言っているのか? それが明確でないのです。
その数値がはっきりしない以上は、こちら側でも正しい判断ができないと私は考えています。場合によっては、昨年に比べたら今年の倍率は低いかもしれないですし、あるいは他の大学よりも低い倍率かもしれない。そういった可能性があるからです。
つまり、「倍率が高い」というのは、生徒本人の主観でしかないのです。
さらに言うと、「偏差値が届いていない」というのも、実際に合格基準に対してどれくらい偏差値が足りていないのか?そもそも偏差値なんか合否を考える上で基準にする必要があるのか?(実際には、過去問の正答率を合否の判断指標にします。)
こういった視点を持って生徒の言葉を聞く必要が指導者側には必要だと私は考えています。別の言い方をすると、私は生徒に的確なアドバイスをするために、生徒の言葉をそのまま鵜呑みにはしないようにしているのです。
生徒の言葉をそのまま受け取って信用してしまうと、「倍率が高いなら、志望校をワンランク低くしたら?」や「他の学部も受験したらどうか?」などの、的外れなアドバイスをしてしまうリスクが生じてしまうからです。
自分の不適切なアドバイスが生徒の一生を台無しにしてしまう可能性があることを考えたら、やはりそこは冷静に対処すべきだと思っています。
一方的な意見ばかり言う人は信用されない
もちろん、信用しないとはいっても、生徒がウソをついているとまでは思っていません。生徒自身のことは信用しています。将来の夢や目標、行きたい大学など、信用した上で精一杯に応援しています。ただ、生徒の発する言葉そのものはすぐに信用しないようにしているのです。
生徒たちはほとんど自覚がないと思うのですが、私に「事実」を伝えているつもりで、自分の「意見」を伝えてしまっていることが多々あります。生徒に悪気があるわけではないとは思います。
ただ、自分の意見をあたかも事実のように話してと、その言葉に信用や信頼がなくなってしまいます。生徒とは人間関係がすでにでき上がっていたので良かったのですが、これが対社会人でビジネスの商談の場となると話は少し変わってきます。
自分の意見や推測を実際に起こった事実のように話したり、事実と意見が混在した状態で伝えたりする人は、基本的に私はその人を信用できません。厳しい言い方かもしれませんが、話半分で聞いてしまいます。
言葉巧みなプレゼンや営業トークをされても、(本人が自覚しているかどうかは別として)意見ばかりになってしまっている人の話は説得力に欠けてしまいます。相手を信用できなければ、私は納得することはできません。つまり、その話は、「わからない」のです。
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「事実は正確に」「意見は客観的に」を意識して信用を高める