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社会

人類は「海から追い出された敗者」の子孫だった?

稲垣栄洋(生物学者)

2019年04月01日 公開 2024年12月16日 更新

「最弱トーナメント」優勝者が我々の先祖だった!

陸上という新天地を求めた魚は、どんな魚だっただろう。

その祖先は、海での生存競争に敗れ、汽水域へと進出した魚たちであった。

そこで硬骨魚類へと進化を遂げた魚たちの中で、より弱いものは川へと侵入した。そして、その中でもさらに弱い魚たちは上流へと追いやられた。まさに、最弱を決定するトーナメント戦のようなものである。

その戦いに負け続けた魚が、川の上流を棲みかとした。

川を棲みかとした魚たちの中で、小さな魚は俊敏な泳力を身につけた。一方、早く泳ぐことのできない、のろまな大型の魚類は水のない浅瀬へと追いやられていくのである。

ところが、である。このもっとも追いやられた魚が、ついに上陸を果たし、両生類へと進化を遂げる。そして、爬虫類や恐竜、鳥類、哺乳類の祖先となるのだから、自然界というのは面白い。

「歴史は勝者によって作られる」と古人は言った。

生命の歴史はどうだろう。

生命の歴史を振り返ってみれば、進化を作りだしてきた者は、追いやられ、迫害された弱者たちであった。新しい時代は常に敗者によって作られるのである。

 

進化はやっぱり、逆境からしか生まれない?

弱き魚を汽水域へと追いやり、広い海を我が物顔に支配したのは、サメの仲間であった。

サメはどうだろう。現在、サメは、古い時代の魚類の特徴を今に残す「生きた化石」とされている。

サメは進化した硬骨魚類のような鱗がない。サメ肌と言われるような固い皮で覆われているだけだ。そして、ミネラルを蓄積するような高度な仕組みの骨がない。そのため、汽水域で進化した魚が硬骨魚類と呼ばれているのに対して、サメやエイの仲間は軟骨魚類と呼ばれている。進化した硬骨魚類は、多種多様に進化を遂げ、川や湖、海とあらゆるところへと分布を広げていった。現在では、サメやエイを除く魚類は、ほとんどが硬骨魚類である。

弱者であった魚は、川という新天地を求め、そしてその後、大いに進化をしていった。しかし、無敵の王者であったサメは、自らを変える必要がない。そして、現在でもその古い型を維持しているのだ。

何も、進化しなければダメなわけではない。サメもまた、現在でも成功している魚類である。しかし、逆境に追い込まれることが、新たな進化を生みだすことは間違いないようである。

著者紹介

稲垣栄洋(いながき・ひでひろ)

植物学者

1968年静岡県生まれ。静岡大学農学部教授。農学博士、植物学者。農林水産省、静岡県農林技術研究所等を経て現職。主な著書に『身近な雑草の愉快な生きかた』(ちくま文庫)、『植物の不思議な生き方』(朝日文庫)、『キャベツにだって花が咲く』(光文社新書)、『雑草は踏まれても諦めない』(中公新書ラクレ)、『散歩が楽しくなる雑草手帳』(東京書籍)、『弱者の戦略』(新潮選書)、『面白くて眠れなくなる植物学』『怖くて眠れなくなる植物学』(PHPエディターズ・グループ)など多数。

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