「東大卒の名医」ならば“がん”は治せるのか? 判断を誤らせる“権威主義”
2019年04月13日 公開 2019年04月15日 更新
<<2人に1人ががんに罹る時代。世間には「医療否定」「がんの自然治癒」など、世の中には数多の主張や説があふれ、「本当に選ぶべき治療」「信頼できる医師」がわからなくなっている。
その結果、不運にも治せる病気が治らなくなってしまったり、効果が証明されていない治療に高額を費やしたりしてしまう患者さんはあとを絶たない。
大場大医師は、外科医と腫瘍内科医という二つの資格を持ち、手術の執刀から抗がん剤治療、緩和ケアまでを臨床現場の最前線で経験してきた稀有ながん治療の専門医。
その大場医師の著書『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』より、日本人の多くに「がん」に対する正しい知識や情報が届いていない現状を憂い、警鐘を鳴らす一節をここで紹介する。>>
※本稿は大場大著『東大病院を辞めたから言える「がん」の話』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
「東大医学部卒」の医師も、そのレベルは様々
人間の心理は、どうしてもわかりやすい権威に服従してしまう傾向があります。すなわち「学歴」「キャリア(経歴)」などに引っ張られてしまいやすい、ということです。
もちろん、それらは信頼の目安にならないわけでは決してありません。しかし、こと臨床医学の分野に関しては、立派なキーワードをプロフィール欄にいくら並べたてたとしても、中身や実力がともなっているかどうかはまったくの別問題、と考えたほうがよいかもしれません。
私は、東大病院在籍時代に、多くの東京大学医学部(理科Ⅲ類)を卒業した医師たちと、数多くの仕事を一緒にしてきました。
受験の世界では、トップレベルの秀才と称される人たちともいえます。東京大学理Ⅲに入学するということ自体が、世間では大きな話題になりやすいわけですが、では、社会人(医師)になってからの評価はどのようなものか?
他では絶対にみられないような本当に優れた医師も多く実在するのですが、総じていうとレベルは様々だといえます。
もし「東京大学」というキーワードだけで、同業の間でも一目置かれてしまう風潮があるとするならば、それは間違いでしょう。
受験勉強を紐解く知能がひときわ優れていても、医の倫理を遵守しながら、社会の中で客観性をもった臨床医として機能できる知性を磨かないと、東京大学のブランドなど患者さんにとっては何の意味もありません。
例えば、東京大学出身という肩書を盾に、自称「がんのスペシャリスト」として意味不明な独自論を展開している元外科医や、漢方薬で「がんが治る」と平然と言い切ってしまう内科医、私的研究の「免疫○○療法」を特別治療と称して、自身の興味を患者に押し付けてお金儲けをしている研究者や開業医……。
実際に様々な「東京大学出身のエセ名医」を知っていますが、彼らは東京大学理Ⅲ出身以前に、もはやまっとうな医師としての体をなしていないといっても過言ではありません。