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「ビルから飛び降りろ」上司の暴言を浴びても…日本の会社員が“奴隷化”する理由

橘玲(たちばなあきら:作家)

2019年04月20日 公開 2022年07月08日 更新

「ビルから飛び降りろ」上司の暴言を浴びても…日本の会社員が“奴隷化”する理由

<<人生をゲームにたとえ「人生は攻略できる」とまで言い切る、橘玲氏。ベストセラー&新書大賞受賞『言ってはいけない』の著者である橘玲氏が語る、これからの時代を自由に生きるためのお金に対する考え方とは。>>

※本記事は、橘玲著『人生は攻略できる』(ポプラ社)より、一部を抜粋編集したものです。
 

お金が必要な本当の理由

お金はなぜ大事なのか。それは、お金から自由にしてくれるからだ。まずは、この話からしよう。

地方の名門銀行で不適切な不動産融資が発覚し、内部でなにが起きていたのかを知るために第三者による調査が行なわれた。そこには、信じがたい行員の体験談が並んでいる。

「数字ができないなら、ビルから飛び降りろと言われた」
「上司の机の前に起立し、恫喝される。机を殴る、蹴る。持って行った稟議書を破られて投げつけられる」
「ものを投げつけられ、パソコンにパンチされ、オマエの家族を皆殺しにしてやると言われた」……。

なぜこんなヒドいことになるかは後回しにして、いちばんの疑問は、「ビルから飛び降りろ」とか「家族を皆殺しにしてやる」といわれて、なんでそんなところにいつまでもいるのか、だろう。さっさと辞めちゃえばいいのに。

でも、銀行員たちは辞められなかった。なぜなら、お金がないから。

 

「自由」とは、イヤなことをイヤだといえること

日本は自由な社会だろうか。

そんなの当たり前だ、と思うかもしれない。どこに住んでも、どんな仕事をしても、誰と結婚しても、(それが法律で許されているのなら)好きなように生きていいのだから。

世界には、親の決めた相手と結婚しなければならなかったり、女性が働くことはもちろん、家族や夫以外に顔を見せることすら許されない社会がある。いろんな国を旅してみればわかるけど、この時代の日本に生まれたというだけで、ものすごく幸運なのだ。

そんな「自由な社会」であるはずの日本でも、大多数の日本人(おそらく9割以上)はなにかに依存して生きている。

「ビルから飛び降りろ」といわれた銀行員が辞められなかったのは、ほかに仕事のあてがなく、会社に依存して生きるしかなかったからだろう。

ドメスティックバイオレンス(家庭内暴力)の調査で、夫から骨折するほど殴られた妻になぜ離婚しないのかと訊くと、そのこたえは「経済的な不安」だ。彼女たちの大半は専業主婦で、家計を夫の収入に依存している。

退職した高齢者は、年金がないと生きていくことができない。だから、毎月の年金が100円減っただけで大騒ぎする。これは、人生を国家に依存しているということだ。

「今日でクビだ」「離婚するから勝手にやってくれ」「日本国は破産しました」といわれたら、このひとたちの「自由」は跡形もなく消えてしまう。

「自由」を経済的に定義するなら、「国家にも、会社にも、家族にも依存せず生きていくのにじゅうぶんな資産を持つこと」になる。これが「経済的独立」だ。

ひとたび経済的に独立すれば、「家族を皆殺しにしてやる」と恫喝する上司には、即座に辞表を叩きつけることができる。夫に暴力をふるわれたら、警察に訴えてさっさと離婚すればいい。

仮に日本国が財政破綻して年金がもらえなくなっても、「せっかく保険料を払ったのに」とぼやくだろうが、これまでと同じ生活をつづけていけるだろう。

そしてこれは大事なことだけど、経済的に独立している人間に対しては、パワハラもセクハラもできない。いじめと同じで、逃げられないと知っているからこそ、安心して好きなだけいたぶるのだ。こういうことをするのは小心者で、相手に逆襲されると思うとなにもできなくなる。

なにかに依存していると、逃げ場がなくなってしまう。そこでしか生きていけないなら、なにをされてもひたすら耐えるしかない。これでは、自由な社会における「奴隷」だ。

経済的に独立していれば、理不尽なことが起きたらいつでも別の場所に移っていける。「自由」とは、イヤなことをイヤだといえることなのだ。

お金があれば、シャネルの服やスーパーカー、豪邸やプライベージェットだって買えるだろう。これはたしかにそのとおりだけど、お金にとらわれない「自由」に比べたら、そんなものになんの価値もない。

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