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“過保護”が原因で体重20kgにまで激減…娘を追い詰めた「母親の支配欲」

片田珠美(精神科医)

2019年07月19日 公開 2023年01月11日 更新

 

母のプレッシャーから摂食障害に

一事が万事この調子で、私を母の思い通りにしようとする傾向が強かったのですが、私は逆らえませんでした。なぜかといえば、私が少しでも口答えすると、母は『あなたのためを思って言っているのに、どうしてわからないの。

あなたが何か間違ったことをするんじゃないかとお母さんは心配でたまらないの』と叫んで、涙ぐんだからです。

とくに私が小学校高学年の頃に、父が家を出て会社の若い女性と暮らすようになってから、母の束縛は一層強くなりました。

中学・高校へ上がるにつれ、普通は友達とのつき合いが増え、一緒に遊びに行くものだと思いますが、私は学校が終わったらすぐ帰るよう命じられました。それを守らず、友達と一緒にショッピングセンターをちょっとブラブラしただけでも、コーヒーを飲んで帰っただけでも、叱られました。

おまけに、『そんなことをして、どれほどお母さんを苦しめているかわからないの。お母さんにとってはあなたがすべてなのよ』と泣かれました。

母は断固として離婚を拒絶し、『離婚するんだったら、社内不倫を会社にばらすわよ』と父に言っていたようです。ですから、父から生活費をもらってはいたものの、実際は母子家庭でした。

母と二人きりの家庭で、『あなたがすべて』なんて言われると、返す言葉がなく、渋々従っていましたが、息が詰まるような生活でした。それで、気晴らしのために食べて吐くことを繰り返すようになり、やめられなくなったのです」

 

母親の過保護・過干渉が引き起こした「生命の危機」

この女性は、体重が20キロ台にまで減少して、生命の危険があったため、一時期入院していた。入院中に、母親が別居中の父親を病院に呼びつけた。

そこで、両親と面談したところ、娘の目の前で、母親は父親を「あなたが浮気なんかするから、娘がこんなことになるのよ。私は何も悪いことなんかしていないのに、どうしてこんな目に遭わなければならないの!」と責めた。すると、父親は母親に「お前が何でも自分の思い通りにしようとするから、息が詰まるんだ!」と怒鳴り返した。

もちろん、夫が会社の若い女性と浮気して家を出て行ったという点で、この母親に同情すべき余地はある。だが、「私は何も悪いことなんかしていない」という母親の主張をそのまま受け取っていいものだろうか?

娘が「間違ったことをするんじゃないか」と心配していたからとはいえ、何にでも口を出し、自分の思い通りにコントロールしようとする母親の姿勢は問題だと思う。

そういう過保護・過干渉が摂食障害を発症させる一因であることは精神医学ではよく知られている。

さらに、うがった見方をすれば、几帳面で完璧主義の妻が何でも自分の思い通りにコントロールしようとする家庭で、息の詰まるような思いをしていた夫が、耐えられなくなって他の女性に走ったとも考えられる。

夫が家を出て行った後、コントロールできる対象は娘しかいなくなった。だからこそ、以前にも増して娘を支配しようとしたわけだが、その自覚がこの母親には全然ないように見える。

自覚がないからこそ、「こんなに気づかっているのに、自分の思い通りにならない」娘に腹を立て、娘の胸中に罪悪感をかき立てる言葉を吐いた。

そのせいで、娘は真綿で首を絞められたような気持ちになり、母親の呪縛から逃れられない無力感と絶望感にさいなまれたはずだ。それを紛らわすには過食と嘔吐を繰り返すしかなかったのだろう。

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