1. PHPオンライン
  2. くらし
  3. 『古事記』でわかる「日本人が綺麗好きである理由」

くらし

『古事記』でわかる「日本人が綺麗好きである理由」

吉木誉絵(外交政策センター研究員)

2019年07月09日 公開 2022年12月07日 更新

 

和の精神――日本人の最大の特徴

日本人が古来重んじてきた調和、すなわち和の精神こそが、日本人の最大の特徴である。これは、多くの日本人が共通認識として持っているものだろう。

例えば、日本人には争いごとを避け、何か問題があれば極力話し合いで物事を解決しようという傾向がある。これは外国人からも日本人の性質としてたびたび指摘されることである。

『古事記』には、神々が集い、話し合いで困難を乗り切ろうとする場面がよく見られる。何か重大な事件が起きたとき、その解決のために一人の神が独断的に何か勝手に決めることはない。

例えば、太陽神である天照大御神が弟の須佐之男命の暴君ぶりに激怒し岩屋戸に引きこもってしまったという神話があると先ほど述べたが、その続きの話では、太陽が天地から消え去って暗闇がはびこり、災いがことごく起こるようになってしまうとある。困り果てた八百万の神々は、集い、話し合って解決策を巡らせる。

『古事記』には他にも、大事なことは皆で話し合って決断するというエピソードが多くみられる。

和を表現する最も象徴的な神話のひとつは『古事記』にある「国譲り神話」だろう。大国主神(おおくにぬしのかみ)は、途中で天の神の手助けを得ながらも葦原中国(あしはらのなかつくに)(日本の別称)を完成させ、統治していた国づくりの神である。

しかし、天照大御神が葦原中国は自身の御子が統治する国だとして、大国主神のもとに使いを出し、国を譲るよう迫る。

普通であれば、国の統治者の変更には戦が伴い、血が流れる。しかし、『古事記』に記された国譲り神話では、多少の押し問答はあれど、話し合いで国譲りが行われるのだ。およそ、血で血を洗うような闘争を繰り広げた末、王権が樹立される中国や欧州諸国などの大陸続きの国々では考えられないような、穏やかな統治者の変更である。

ちなみに、国を譲ることと引き換えに、大国主神は立派な宮殿を建てそこに祀られることを願う。それが出雲大社だとされている。この国譲り神話と江戸の無血開城は非常に似ており、日本人が争いを避け話し合いで解決しようとする傾向はこのように歴史の中でも発見することができる。神話にあることは歴史でも繰り返されるのだ。

関連記事

アクセスランキングRanking

前のスライド 次のスライド
×