「生活に役立つチカラ」を技術革新で広げたい~ホンダのパワープロダクツ事業
2019年08月14日 公開 2019年08月14日 更新
「人生100年時代」の働き手を支える
現在、「人生100年時代」という言葉が注目を集めています。日本政府も「人生100年時代構想」を掲げていますが、基本的にこのままでは社会保障制度の存続が危ぶまれるので、国民がより長く働くことができる社会に変えていこうという側面があると考えます。
したがって、例えば日本国内でホンダの製品をお使いいただいている農業や漁業従事者の皆さんの高齢化問題などを考えると、製品をより使いやすく、軽量かつシンプルなものにしていくと同時に、仕事の効率化に貢献していく努力を今後も続けていく必要があるでしょう。
また除雪機などの作業機では、例えば雪国の朝の重労働である除雪作業の負荷を軽減し、老若男女がより簡単にスピーディーに作業を行なえる「ハイブリッド除雪機」を新たに投入しています。同機種では、除雪する雪の量や質といった作業の負荷に合わせて走行速度を自動的に調整し、除雪作業を効率化しています。速度のきめ細かい調整が必要となる走行は電動で行ない、力の要る除雪作業はエンジンで行なうというように、モーターとエンジンの動力を組み合わせているわけです。
電動で自走しながら自動運転で芝を刈り取るロボット芝刈機「Miimo(ミーモ)」も2012年に欧州で発売を開始しました。芝刈りは重労働で、しかも、雨が降ったり晴れたりという日が続くと、あっという間に芝が伸びてしまいます。
しかし「ミーモ」は、任意に指定した曜日・時間・エリアで、掃除ロボット「ルンバ」(アイロボット社)のように芝刈りを自動運転で行ない、必要に応じて自動で充電ステーションに戻って充電を行ないます。電動で静音性が高いので、夜間作業も可能で、細かく刈った芝はそのまま芝の間に撒かれ、廃棄の手間が省けます。
「ミーモ」を利用していただくことで、ユーザーの皆さんが辛い芝刈り作業から解放され、その分自分がやりたいことに時間を使えるようになることを目指しており、今後はAI(人工知能)などを搭載し、対話型で操作できるようにするなどの進化の方向性も模索しています。
余暇が充実、手軽に扱える耕うん機
そして、「人生100年時代」において、生活の充実のために大きなポイントになるであろう余暇の有効活用に役立つ製品ラインアップも多数取り揃えています。その中でも、シニアを中心に人気の高い家庭菜園やガーデニング向けの製品として、従来のガソリンエンジン式ではなく市販のカセットガスで手軽に扱える耕うん機「ピアンタ」が好評をいただいています。
ホンダは1959年からガソリンエンジン式の小型耕うん機を手がけてきました。従来、耕うん機には、作業機として農業の生産性の向上に必要な機能が求められてきました。
そんな中で、1966年に発売された「F90」は、デザインにこだわり、耕うん機としては初めてディーゼルエンジンを搭載して話題となりました。ユーザーの間では「耕うん機のロールスロイス」と呼ばれていたようで、当時の農家さんに強い愛着を持っていただき、使わなくなった後もずっと保存している方が少なからずいらっしゃいました。
一方で最近では、生活を楽しむために家庭菜園やガーデニング、市民農園などで土と触れ合う人が増える傾向にあります。そんな方々のお役に立てるよう、当社では耕うん機の使いやすさにこだわっています。
一例を挙げれば、土のついた耕うん機を自家用車で運んでいる方が意外と多いので、耕うん機の運搬用ケースをつくりました。実際にお使いいただいているユーザーさんからは、「車が土で汚れなくてとても助かる」とお褒めの言葉を頂戴しています。通常、ケースはオプションにするのですが、手軽に農作業を楽しみたいというユーザーさんのことを考え、ケースを標準付属品にすることにこだわりました。
個人的な話になりますが、今から30年前に当社に入社した頃の私は、岩手、秋田、青森の東北三県を担当し、上司から農耕作業を勉強するように指導されました。農耕作業を勉強する中で見えてきたものは、現場で作業している人たちの苦労でした。例えば作物の収穫にしても、普通の人なら三十分も作業を続けていると腰が上がらなくなるのです。
そこで当社では、タイヤつきで、座りながら畝を移動して収穫作業ができる補助用具をつくり、安価で販売もしています。そういう活動を続けていると、「こういう機械もつくってほしい」といった声をいただき、その声に応えなければという気持ちになります、現場・現物・現実を重んじて問題解決を図る「三現主義」を、これからも徹底させていきたいと考えています。
本稿は、衆知【2019年1・2月号】特集「『人生100年時代』の経営戦略」より、一部を抜粋、編集したものです。