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医者が明かす本音…患者の「自分は院長の知り合いだ」は逆効果

平松類(医師・医学博士)

2019年08月21日 公開 2022年07月11日 更新

 

患者の見た目や話し方で、治療法が変わってしまうこともある

ではどうすればいいかというと、シンプルですが、身なりをきちんとするということが第一です。とはいっても、すごくきれいな服を着る、必ずお風呂に入ってから行くということではなく、ごく普通の格好であれば問題ありません。

「病院という病人が行く場所なんだから、汚くてよれよれのほうが辛そうに見られて優しく診療してもらえる」と思う人が実際にいますが、それはやめておきましょう。

なお、きれいにしすぎても、むしろ変になります。ある救急の医師が言っていましたが、「夜中急に痛みが出て、辛くて死にそうだというのに、ばっちり化粧がしてあってブランドバックを持ってきている人は注意して診察しなさい」だそうです。

「緊急事態なのに、こんなに着飾るなんておかしい。本当に痛むのか? 全く別の、言いづらい事情があるのではないか?」と疑ったほうがいいということです。

病院にくるのに背中が大きく空いたドレスを着ていたら、それは「何なの、この人?」と思います。トレーナーにジーンズなどカジュアルな格好でも、常識的な範囲で清潔感があれば十分なのです。

実はもっと困ったことに、患者さんの身なりや話し方次第では、「効く薬をあえて出さない」ということさえあります。それこそ、差別以外の何者でもありません。

よくあるケースとしては糖尿病です。糖尿病というのは血管の中にある血糖というのが増えてしまう病気です。これが増えると血管にダメージを与えて、心筋梗塞や脳梗塞、目の出血、腎臓の機能の悪化を招きます。

足を切断しなければいけないほどになることさえある怖い病気です。血糖を下げるのは、運動・食事が基本です。それでもダメな場合は飲み薬を使い、さらに悪くなった場合はインスリンという注射を打つこともあります。

ただしインスリンの注射は、患者さんが自分で打つものであり、注射の量を間違えてしまうと意識を失ってしまうことがあります。ですから医者としては「こっちのほうが医学的には正しいが、この患者さんはだらしないし注射を適当に打ってしまうだろう」と判断して、弱い治療で我慢することがあります。

仮にどうしても身だしなみを整えにくいのであれば、薬をきっちり使い続けることです。言われた薬を言われた通り飲んでくれば、「この患者さんは、薬の管理はきちんとできていそう。だったら、もっとよく効く薬を出しても大丈夫かな」と医者は考えます。

もしこのように見た目で判断してしまって患者さんが悲しそうにしている時、医療従事者はどうすればいいのでしょうか。

かなり極端に、見た目で判断してしまう医者が実際にいました。でもその時に、看護師が間に入っていわば付き添いのような立場になって話を進めると、医者は普通の患者さんと同等以上にしっかりと話してくれるようになりました。

患者さんの横で看護師が「何か心配ありますか?」と聞いて「実は最近胸が調子悪くて」というように、患者さんが話しやすいかたちで質問をして患者さんの不安を解消しました。いわば周りの人がクッションになり、「多少難しい話でも、横から説明して助けてくれる」と患者さんは思うようです。

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「院長の知り合い」であっても口にしてはならない

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